2024年10月27日
宮城県柴田郡村田町スポーツランドSUGO
動員数:1,500人
2024年全日本選手権第7戦SUGO大会。トップカテゴリーのIASはこのあとシティ・トライアル・ジャパン大会が控えているが、その他のクラスはこれが最終戦となる。例年、最終戦のこの時期は寒さに震えることが多いのだが、今年は絶好のトライアル日和。体を使ってライディングするライダーには、ちょっと暑いくらいの陽気になった。
前回、和歌山・湯浅大会に続いて、今回も元世界チャンピオンの藤波貴久(Honda)が参戦。インターバルの2週間で、さらに乗り込みとセッティングを進めてきたということで、終盤戦のスポット参戦とはいえ、必勝の体制だ。ちなみに藤波が最後に全日本選手権に参戦したのは2003年最終戦のSUGO大会。21年ぶりに、藤波が世界チャンピオンとなってSUGOに戻ってきた、ということになる。
セクションは例年とほとんど変わらず。各クラスともトップライダーにとっては減点を最小限に抑えなければいけない神経戦の様相で、前回大会とはずいぶん性格が違う戦いを強いられたと、藤波も語った。IB・LTRは第5と第8を除く8セクション2ラップ、IAは10セクション2ラップ、そしてIASがこれにふたつのSSを加えての戦いとなった。
参加はIASが17名、IAが36名、LTRが9名、IBが63名、そして来日していて出場を希望したイタリアのレディースGPクラスのライダー、アレシア・ババケッタが賞典外でレディースクラスのセクションにトライする。スタートはIBとそれに続くバチェッタまでが1分に2台、それ以降は1台ずつ1分間でスタートとなった。
国際A級スーパー
神経戦の戦いと想定してのスタートだったが、開始早々の第3セクションで藤波が1点を失った。小さな石にタイヤをとられてのホッピングの失敗。これに藤波は大きな危機感を覚えていた。しかしスタート以降全セクションをクリーンしていた小川友幸(Honda)、氏川政哉(ヤマハ)が第6セクションで5点になって形勢は逆転、以後、最小限の減点でセクションを走破していく藤波には、誰もついていくことができなかった。藤波の2連勝で、ランキングポイントも50ポイントとなり、ここまでのランキングを8位として、次戦、ランキング10位までが出場権を持つシティ・トライアル・ジャパン大会にも出場が決まった。
一方、全日本チャンピオンを争う日本勢は、なかなかの接戦を演じた。1ラップ目、5点なしの黒山健一(ヤマハ)がトータル7点、これに小川友幸と氏川が10点で続く。小川毅士(ベータ)が12点と僅差で追うが、タイトルを争う3人は手堅い。ランキングでは黒山がトップで、これを小川友幸と氏川が4点差で追っている。今大会の勝負もランキングも、どちらも大接戦だ。この大会、黒山は新型マシンを持ち込んだ。これまでのTY-E2.2から一気に進化したTY-E3.0。詳細は明らかにされないが、モーターなどの作動音が格段に静かになったのが大きな変化。もちろん性能的にもそれ以上の変革が施されているにちがいない。
2ラップ目、3人は揃って、難関の第6セクションまではクリーンした。藤波を上回るスコアをたたき出すのはむずかしいものの、2番手を誰が奪うかでタイトル争いの流れが変わってくる。大きな勝負の分かれ目は、第9、第10だった。このふたつを、黒山、氏川ともに5点。小川友幸は両方を1点ずつで抜けた。
2ラップを終えて、小川友幸は15点、黒山が20点、氏川が25点。きっちり5点差ずつ。しかし黒山と氏川の間には、23点の小川毅士が割って入っていた。小川毅士は、第9をクリーン、第10を3点で抜けて、表彰台争いに加わってきた。
SSは、建築素材のコンクリートブロックを絶妙に並べたもの。同じセクションを往復することで、SS1とSS2としてトライする。高さがあるだけでなく、セクションがコンクリートブロックの幅しかないから、ちょっとラインを乱すとセクションから飛び出してしまうリスクもある。
SSに進出する10位までには、ここまでに登場した5人の他、久岡孝二(Honda)、武田呼人(ガスガス)、黒山陣(シェルコ)、武井誠也(Honda)、そして柴田暁(TRRS)。柴田は1ラップ目後半にマシントラブルに見舞われ、そのまま修復はならず、なんとかコースを一回りして申告5点のパンチをもらってゴール。2ラップ目はオール5点だが、それでも10位に入っていた。しかしSSはトライできず。柴田のSSのスコアは5点ふたつ、ということになる。
SS1を最初に抜けたのは武田だった。武田と久岡は6位争いの渦中にいたが、負けじと久岡もSS1を3点で抜け、両者の点差は変わらず。その後、氏川が5点、小川毅士が初めて1点で抜けたあと、黒山も5点。これで黒山は小川毅士に逆転を許して4位となった。黒山のあと、小川友幸は確実に2点で走破、2位が決まった。
最後の藤波は、すでに勝利は決まっている。SSをふたつとも5点でも優勝できるのだが、藤波には課題があった。前回、SSをふたつとも5点となったのが、大きな心残りであり、悔しかった。この日は念入りに下見をし、慎重の上にも慎重に、そして渾身の集中を注いでSS1をトライした。クリーンだ。
残りSS2一つとなり、順位がおおかた確定してきたものの、小川毅士と黒山の3位争いはまだ決着がついていない。その差1点で小川毅士が上位につける。まず小川毅士がトライ。クリーンすれば毅士の3位が決まる。しかしむずかしいポイントで、毅士は確実に足をついてマシンを送り出した。1点。さぁ黒山のトライだ。氏川はSS2も5点だったので、黒山の4位以上は決まっている。失うものはない。クリーンが出れば、毅士と同点、クリーン数差で黒山が3位となる。しかし黒山もまた、小川同様に足が出た。安全にマシンを運ぶにはいたしかたなかったが、それは黒山から表彰台を奪う結果となった。
残る二人、現役全日本チャンピオンと、元世界チャンピオン。二人は共に、1回の足つきもなく、この難セクションを走破した。藤波にすれば、前回大会の借りを返しての完全制覇。そして小川にすれば、中盤以降苦しんだタイトル争いで、僅差ではあるがランキングトップを取り戻した渾身のトライとなった。
泣いても笑っても残りは次週のシティ・トライアル・ジャパン1戦。最終戦は、ここまでの自然地形を相手にしたトライアルとは異なり、人工物を相手となる。そこにはまた、未知数の波乱も待ち受けている。
国際A級
前回和歌山・湯浅大会で、成田匠(EM)のシリーズタイトルは決まっている。ホンダとヤマハの電動マシンの対決で話題沸騰の全日本トライアルだが、このクラスではフランス製EMがひと足早く栄冠をものにしている。
しかし成田は、1ラップ目に3つの5点で苦戦を強いられた。1ラップ目、トップに立ったのが、砂田真彦(Honda)だった。砂田を2点差で追うのが、今シーズンの若手のホープ、宮澤陽斗(ベータ)。表彰台の常連となって、あとはいつ初優勝を遂げるかがテーマだった。
神経戦の中、二人の争いは接戦。2ラップ目、今度は宮澤が砂田の減点を上回った。しかしわずか1点差。トータルでは、1点差で砂田の勝ちとなった。砂田は元IASライダーだが、それ以前にIAクラスを走っていた際に1勝して以来、今回は10年ぶりの2勝目となる。
宮澤に次ぐ3位は長くIAの中堅を続けている中里侑(TRRS)が、初の3位表彰台を獲得した。成田は4位となった。
レディース
1ポイント差で最終戦を迎えたチャンピオン争い。中川瑠菜(ベータ)と山森あゆ菜(モンテッサ)のタイトル争いは激戦だった。序盤、試合をリードしたのは中川だった。1ラップ目、中川のリードは5点。山森は2ラップ目の巻き返しにかけた。
しかし2ラップ目、中川に異変。マシントラブルで動けない。ピットまで押して戻り、再びコースに出たときには、すでに持ち時間はぎりぎりだった。残る4セクションをすべて申告5点として、さらに6点のタイムオーバーを喫してゴール。勝利は山森のものとなったが、それでも中川は2点差で2位を確保した。
同い年で地域も近く、ずっといっしょに切磋琢磨してきた二人。タイトル争いも一進一退で最終戦まで争ってきた。それが意外な結末で決着を見た。山森は、タイトル獲得の喜びを聞かれ、ライバルの脱落によるくやしい勝利だった今回を踏まえ、ちゃんと勝って、すっきりした3連覇を目指すと誓った。
3位は 齋藤由美(ベータ)だったが、ランキング3位は米澤ジェシカ(TRRS)が獲得した。
賞典外で走ったバケッタはやはり別格の強さを見せた。レディースのマーカーを通りながら、他クラスのマーカーにもトライして、山森の1/3のスコアで全セクションを走破した。女子T2クラスのチャンピオンにして、女子GPのデビューイヤーを堅実に走って来年以降の飛躍が期待されるイタリアの新星は、やはり実力者だった。
国際B級
永久保圭(ベータ)が2連勝したことで、高橋淳(TRRS)に5ポイント差まで迫った最終戦。永久保が優勝すれば、高橋が2位でもタイトルは永久保となる。しかし戦況は高橋に有利だ。
ここ2戦、テープを切ったりの5点で勝利を逃していた高橋だが、今回は改心のトライ。2ラップ目2点、2ラップ目3点はほぼベストといっていいだろう。永久保は地元の長谷川一樹(モンテッサ)に1点差で敗れて3位。しかし堂々、ランキング2位で国際A級への昇格切符を手中にした。
国際A級への昇格を決めたのは、高橋、永久保、台湾のChen(Honda)、袋井就介(EM)、そして田上拓(モンテッサ)の5名だった。