2024年、ライバルとのバトルを戦い抜き、チャンピオンに輝いたライダーたちは、今シーズンをどう振り返るのか。チャンピオンインタビュー第1弾として、IB OPENクラスでチャンピオンを獲得した#5松岡力翔(SP忠男広島/ヤマハ YZ250F)に話を聞いた

全日本モトクロス選手権で開催されるIB OPENクラスでは、年間ランキング10位までのライダーがIAクラスへ昇格できる。その昇格枠を目指して、地方選手権を勝ち抜いてきたライダーたちによるトップ争いは毎年混戦を極めている。

2024年は特にライダーたちの実力が拮抗しており、レースごとに優勝するライダーが異なる大会も多かった。そんな中、着実に結果を残し、今年チャンピオンに輝いたのが#5松岡力翔(SP忠男広島/ヤマハ YZ250F)だ。彼の強さは、追い上げる力。スタートで出遅れても、20分というレース時間の中でしっかりと追い上げ、上位争いを展開してきた。チャンピオンを獲得した今、シーズンをどう振り返るのか。IBチャンピオンになるまでの経緯も含めて話を聞いた。

チャンピオンになった実感は……

JMX Promotion編集部(以下:編):IB OPENクラスチャンピオン獲得おめでとうございます! チャンピオン決定直後にコメントを聞いた時は「実感がない」と話していましたが、最終戦から数週間経った今、その実感は湧いてきましたか?

松岡力翔(以下:松岡):その時よりは実感してきてますね。チームや友達、地元の人におめでとうとお祝いしてもらって、チャンピオンになれたんだと、実感が湧いてきました。ただ、最終戦のヒート2で怪我をしてしまって、シーズンオフに入ってからは練習せず、治療に専念しています。

編:そうですよね……。私は転倒した場面を見ていなくて、レース後に腕を吊っているのを見て驚きました。どこを怪我したのですか?

松岡:単独で転倒して、肩を脱臼してしまいました。思わぬところで路面に引っかかって、身体を打ち付けて、そのままリタイアしました。最終戦は守くん(※1)が強かったのですが、ヒート2のスタート直後に転倒していたのを見て、ここでいくしかないと思って攻めてました。勝てる、自分にチャンスがきたと思っていたのですが、ものにできなかったですね。

※1:#61守大夢選手。東北出身のライダーで、宮城県のスポーツランドSUGOで行われた第4戦・最終戦ともに全ヒート優勝し地元での強さを見せた

編:チャンピオンを獲得したとはいえ、怪我でシーズンを終えたというのは悔しいですね。

松岡:そうですね、治るまでにも時間がかかりそうで、早く回復してバイクに乗りたいです。

「やっぱりモトクロスがしたい」。復帰に至るまでの2年間

編:今はおいくつですか?

松岡:今年22歳です。所属チームでもあるSP忠男広島で働きながらレース活動を行っています。編:何歳からモトクロスを始めましたか?

松岡:5歳から始めました。きっかけは家族で行ったドライブですね。

編:ドライブですか……?

松岡:はい。家族でドライブに行こうってなって、行った先が世羅グリーンパーク弘楽園でした。そこで初めてモトクロスを見て、僕もやりたい! って親に言って、それをきっかけに始めました。僕は5人兄弟の3人目で、僕と弟2人がモトクロスをしていました。最初は遊び感覚で乗っていたのですが、親が真剣になって、僕にも火がついた感じです。

編:そこから本格的にレースにも出始めるようになったのですね。最初にレースに出たのがいつか覚えていますか?

松岡:覚えていないですね……。地方選手権に出ていたのですが、ジュニアクラスに参戦し始めた時は予選通過ギリギリのラインにいるレベルでしたね。

編:なるほど。IBになったのはいつごろですか?

松岡:2018年ですね。ただ、3年間IBクラスを走った後、実はモトクロスでのレース活動を辞めて2年間陸上自衛隊にいました。その後、2023年にもう一度IBクラスに戻ってきたという感じです。

編:陸上自衛隊ですか! どうしてその道に進んだのですか?

松岡:IBクラスで3年間走ってみましたが、予選通過がギリギリという状況で、結果がずっと出なくて。自分モトクロス向いてないなあって感じてしまったんです。それまで小さい頃からずっとモトクロスを続けてきていたこともあって、練習もなあなあにしていたので、1回「味変」しようと思ってモトクロスを辞めて自衛隊に行きました。

編:なぜそこで選んだのが自衛隊だったんですか?

松岡:高校の仲の良い友達が自衛隊に行くっていう話を聞いて、その選択肢に魅力を感じて選びました。入ってからは毎日訓練を続けていたので、そこでメンタルが鍛えられたと思います。

編:モトクロスを辞めて、という話ですが、自衛隊に入った後は未練などはなかったですか?

松岡:自衛隊に入った後もずっとモトクロスのことを考えていました(笑)。その時は弟がモトクロスを続けていたので、練習相手になったり、一緒にバイクに乗ってはいました。その中でやっぱりモトクロスを続けたい、レースに出たいと思って、もう一度モトクロスするにはどうしたらいいのかなって考えて、自衛隊を辞める決断をしました。

編:なるほど。その後今所属しているチームに戻ったという感じでしょうか。

松岡:そうです。ジュニアから所属している「SP忠男広島」でずっとお世話になっています。自衛隊を辞めてもう1回モトクロスを始める時も相談して、チームに戻りました。

コーチの教えを生かして。開幕戦での3位がチャンピオン獲得へのきっかけに

編:レース活動を再開した2023年はランキング16位。そこからトップ争いを繰り広げ、チャンピオンを獲得するまでになるというのは簡単ではないと思います。何か変化があったのでしょうか?

松岡:去年からコーチとしてついてもらっている人がいます。昨シーズンは全戦会場についてきてもらって、アドバイスをいただいてました。その教えが僕自身を成長させてくれたと思います。1年間教えてもらって、今年は自分で考えて動きな、と言われて、わからないことなどがあれば電話で対応してもらっていました。ずっとつきっきりで教えてもらっていたら自分で考えようとしなくなるので、教えをどう生かすか、自分で考えながら走るようになったことが結果にもつながったと思います。

編:特にどんな部分に自分自身の成長を感じましたか?

松岡:去年を振り返ると、練習では思うように走れるのですが、レース本番になると全然ダメで、特にメンタル面が弱くて前に出れませんでした。例えば、自分はスタートが下手で、毎回前に出れないことで「また前に出れなかった……」と落ち込んで、追い上げられないことが多くありました。練習ではライバルよりも速く走れるのに、と悔しかったです。

でも今年は自分に何が足りないのか、速くなるためにどうすれば良いかずっと考えて練習してきました。そこで、今年は特に実践形式のヒート練習を多く行いました。IAライダーと一緒に練習もさせてもらって、乗りこんでいくことで昨年よりも自信を持って開幕戦に挑むことができました。

編:その成果も実って、開幕戦ヒート2で3位を獲得していましたね。IB OPENクラスでは初めての表彰台だったと思います。この結果が、その後毎大会表彰台に登るようになるきっかけになったように見えました。

松岡:そうですね。開幕戦で3位を獲れたことは自分にとってすごく自信につながりました。俺いけるじゃんって、気持ちも上向きになって、その後のレースも自信を持って走ることができました。

編:今年1年見てきた中で、毎レース、スタートで前に出れなかったとしても追い上げて、トップ争いを繰り広げる強さには感服していました。開幕戦での自信が、その強さに繋がっていたのですね。

松岡:そうですね。

怒涛の追い上げを見せた第6戦

編:今年はトップ争いがかなり混戦を極めていたと思います。そんな中で、一番印象に残ってる大会はありますか?

松岡:名阪スポーツランドで開催された第6戦が一番印象に残っていますね。初めて両ヒートとも優勝できたので、すごく嬉しかったです。

編:第6戦も凄まじい追い上げでトップに立っていましたね。

松岡:そうですね、ヒート1は12番手あたりから、ヒート2は5番手あたりからの追い上げでした。特にヒート1はスタートして1周終えた時にトップとかなり離れていたので、正直無理かもと思いました。ただ、夏のインターバル期間に毎週名阪スポーツランドで乗り込んでいたので、その成果が出たと思います。

チャンピオン獲得とIA昇格。来シーズンに向けて

第7戦ヒート2表彰式。仲が良いと話す飯塚選手と表彰台に登る

編:チャンピオンを獲得して、率直にどんな気持ちですか?

松岡:嬉しいです。チャンピオンになれたこともそうですが、つばっち(2024年IB OPENクラスランキング2位の飯塚翼選手)と年間ランキングをワンツーで終えることができたのも嬉しく思っています。

編:仲が良いんですね!

松岡:同じMIKAのハンドルを使っている繋がりで仲良くなって、練習もよく一緒にしていました。最終戦ヒート2が終わった後、ランキングが決まってワンツーになれたのが嬉しくて、つばっちのパドックに行った時に号泣しちゃいました(笑)。

編:嬉しさが伝わってきます! 第7戦で飯塚選手が優勝した時も、ライバルである松岡選手が嬉しそうだったのを思い出しました。素敵な関係ですね。最後に、来年に向けては何か決まっていますか?

松岡:来年は全戦出る予定です。クラスはIA1で考えています。

編:ということは、250ccから450ccのマシンに乗り換えるということですね。

松岡:はい。排気量が大きくなるし、マシンに慣れるためにも今から練習したいのですが、怪我で何もできないのはもどかしいです。それでもできることは精一杯やります。来年の目標はランキング10位以内に入ることです。厳しいとは思うのですが、達成できるように頑張ります。

編:IAになった松岡選手も楽しみです。応援しています!

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