IA2クラスのシリーズチャンピオンが決定する最終戦直前、チャンピオン候補である#3中島漱也(bLU cRU レーシングチーム鷹/ヤマハ YZ250F)と#2横澤拓夢(TKM motor sports いわて/ホンダ CRF250R)にインタビューをお願いした。仲の良い2人の関係性、そしてチャンピオンにかける想いとは
第7戦終了時点で13ポイント差。今年のIA2クラスのチャンピオン争いは劇的で、熾烈を極めている。今季を振り返ると、中島と横澤は開幕戦でそれぞれ1勝を挙げ、第2戦では中島が全勝、第3戦・第4戦では横澤が負けじと全勝を果たしている。さらに第5戦ではヒート1のラストラップで横澤が中島を抜かして優勝、ヒート2では中島が横澤を逆転し優勝を獲得、と一進一退の攻防を毎戦繰り広げ、チャンピオン争いは最終戦へもつれ込んだ。そんな大事な一戦を前に2人は何を思うのだろうか。
土台を作ってくれた先輩、理解しあえる存在。2人の関係性
最終戦への想いを聞く前に、2人の関係性を紐解いていく。レースでは毎戦トップを競い合う2人だが、レースを終えた後や表彰式では仲の良い姿が印象的だ。聞くと、2人は付き合いが長く、プライベートではお互い仲が良いという。
中島と横澤が出会ったのは7〜8年ほど前。横澤はIAクラスに参戦しており、中島はまだ85ccに乗っていた中学生だった。
「僕が中学生の頃は拓夢くんはもうすでにIAクラスを走っていました。拓夢くんがオフロードヴィレッジ*1に練習に来た時は、練習終わりに僕の家に遊びに来てくれたり、年末もうちに来て一緒に年越ししたこともあって、昔からプライベートでも仲が良いですね。僕がまだ免許持ってない時は練習に連れて行ってくれたり、色々お世話になってました」(中島)
「出会った時は漱也はまだジュニアで、85ccに乗っていました。今は同じIA2クラスで、去年の漱也の走りを見ていても今年はチャンピオン争いするだろうなと思っていましたし、実際に今シーズンを通してライバルとして存在感を感じるようになりました。いやあ、だいぶ成長しちゃいましたね」(横澤)
*1:埼玉県川越市にある全日本コース。中島のホームコースでもある
中島は2020年にIA2クラスデビュー。今年で4年目となる。一方横澤はIA1クラスを経て2022年からIA2に参戦。2人が同じクラスで戦うのは2年目だ。お互いについて聞くと、2人とも信頼し合う仲の良い関係を築いていることが伝わってくる。
「僕がIA2クラスに昇格した1年目と2年目は、拓夢くんはIA1クラスに出場していたので被っていませんでした。ただ、プライベートでの繋がりは続いていて、僕がIA2クラス2年目の時には、拓夢くんの家から5分かからないくらいの場所にアパートを借りて半年くらい1人暮らしをして、トレーニングや練習を一緒にしたりと面倒見てもらってました。自分は他のIAの選手と練習することがあまりなかったので、プライベートの過ごし方もそうですし、トレーニングの仕方とか、練習方法とか、プロライダーとしての過ごし方を拓夢くんから教わって、土台を作ってもらったと思っています。僕はずっと拓夢君を追いかけてきました。年も離れていて4つ先輩なんですけど、ずっと面倒を見てもらって感謝しかないですね」(中島)
「漱也から関東には練習できるコースが少ないと聞いていて、自分としても練習相手が欲しかったので、うちの近く(東北)に来なよと誘いました。そしたらすぐに来てくれました。一緒のハイエースで練習に行ったりとか、多くの時間を一緒に過ごしていましたね。モトクロス以外の話でも価値観や考え方が似ていて、モトクロスで出会っていなかったとしても仲良くなっていただろうなと思います。あんまり後輩という感じはしなくて、お互い理解しあえる関係です」(横澤)
チャンピオンへかける思い
ポイントランキングを見ると、第6戦までは横澤が1位でリードし続けてきたが、第7戦で中島が3ヒート全てのレースで優勝したことにより立場が逆転。中島がトップに立ち、横澤が2位、そのポイント差は13ptと、僅差で最終戦を迎えることとなった。横澤を「ずっと追いかけてきた」と語る中島が、今は追われる立場になっている。迎える最終戦へどんな気持ちでいるのだろうか。
中島漱也「ここで結果を出すライダーが強い」
「拓夢くんと同じレースに出場して、バトルをして、今はチャンピオン争いもしている。特に今年は毎戦気が抜けない、勝つか負けるかというレースをしているのですが、関係性としてはそこまで変化はないですね。レースになったら、先輩後輩など全部ないのと同じで考えてますし、たぶん拓夢くんもそう思ってくれてると思います。お互いにレースになったら、走りに集中するし、ちょっとでも隙があれば攻めていく。拓夢くんが同じ気持ちでいてくれてるからこそ、これまでのようにバトルができていると思います。
レースが終わった後は、切り替えて、普段通りに戻りますね。いつも声をかけにきてくれます。ただ、レースなので勝負はつきますし、僕と拓夢くん、どちらかは必ず悔しい思いをしています。接戦で優勝を分け合った北海道大会では、ヒート1は最後に拓夢くんに抜かれてすごく悔しくて、僕があんまり喋れなかったのですが、それでも声をかけに来てくれるので、良い関係が築けているんだと思います」
最終戦に向けて中島は語る。
「僕は第4戦のヒート2でDNFになったことで、拓夢くんとはかなりポイントが離れてしまいました。なので、これまでは1ヒートも落とせないっていう崖っぷちのレースがずっと続いてきました。今回ランキングトップになって、追われる立場に変わったわけですが、これまでのレースでメンタルも鍛えられているので、チャンピオンがかかった重要な一戦だったとしても、あんまりそこにプレッシャーとかは何も感じてないですね。今までと変わらず、ただ勝つだけです。
もちろん、IA2クラスで走ってるからにはチャンピオン獲得を目標に挑んでいます。ただチャンピオンを獲るためだけにモトクロスをやってるわけではなくて、将来世界で活躍したいっていう自分の夢があって。そこに向けてはやっぱりここでチャンピオンを獲るか獲らないかというのではこの先が変わると思っています。この最終戦は自分の夢を叶えるための、人生を変える一戦になると思います。
プレッシャーは感じていませんが、メンタル面は普通ではないです。いつもよりもコントロールが難しいのですが、この緊張感を経験できるというのは、チャンピオン争いをしてる間にしか味わえないと前向きに捉えています。こういう大事な一戦で、この緊張感の中で結果を出すライダーがやっぱり強いと思いますし、これからもこういう場面に直面すると思います。今のこの緊張感をしっかり味わいたいです」
横澤拓夢「追いかける立場になった今、去年の感覚が蘇る」
「去年ビクトル(※ビクトル・アロンソ:2023年IA2クラスチャンピオン。横澤とチャンピオン争いを繰り広げた)を追っていた時の気持ちを思い出しましたね。今年はランキングトップをキープしてきて、追われる立場だったので、勝ち続けなきゃというプレッシャーを感じていました。一方で、去年は常に追いかける立場で、毎戦速さを見せつけにいこうという気持ちで挑んでいたので、今回追いかける立場になってその気持ちを思い出しました。
今はノープレッシャーですね。もう後はやるだけ。やることをやって、後はなるようになる。それだけだと思います。チャンピオンを獲るということは、今後モトクロスを続けていくにあたってプラスになる要素が増えると思います。自分は、ゆくゆくはIA1クラスに戻って参戦すると思うのですが、IA1にはIA2クラスでチャンピオンを獲ったライダーが多くいるので、自分のこの先を考えた時に、今回のチャンピオンは絶対に必要だと思っています」
最終戦を目前に迎える心境を聞くと、横澤は率直に答えてくれた。
「最終戦、正直早く終わりたいです(笑)。自分の仲の良い人とシーズンを通してこういう物語を作ってこれたというのは、スポーツを見せる側としても素晴らしいことだと思いますし、ストーリー的にも僕が逆転して勝った方が盛り上がりますよね。最後まで、相手が誰だろうが関係なく、自分のベストを尽くして優勝を目指します。そして、終わったら漱也とゆっくりご飯行きたいですね」
来る最終戦は10月19〜20日。それぞれがチャンピオン獲得にかける思い、そのバトルをぜひ現地でご覧いただきたい。
第8戦(10/19-20)
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