2024年、ライバルとのバトルを戦い抜き、チャンピオンに輝いたライダーたちは、今シーズンをどう振り返るのか。チャンピオンインタビュー第2弾では、IA2クラスチャンピオンの#3中島漱也(bLU cRU レーシングチーム鷹/ヤマハ YZ250F)に話を聞いた

実力伯仲のIA2クラス、今年のチャンピオン争いも苛烈を極めた。シーズン序盤こそ優勝するライダーがヒートごとに変わるほど拮抗していたトップ争いも、次第に#3中島漱也(bLU cRU レーシングチーム鷹/ヤマハ YZ250F)と#2横澤拓夢(TKM motor sports いわて/ホンダ CRF250R)がレースを牽引し、チャンピオンをかけたバトルは僅差で最終戦にまでもつれ込んだ。

そんな2人は、JMX Promotionサイトでも記事にしたように仲が良いが、両者ともに「今年チャンピオンを獲ることで人生が変わる」と話すほど、王座にかける想いが強かった。兄のように慕う横澤との接戦を制した中島は、今シーズンをどう振り返るのだろうか。開幕戦から最終戦までに感じた思い、チャンピオン獲得を支えたチーム環境、そして今後見据える先について話を聞いた。

積み重ねた成功体験。開幕から流れを掴む

JMXPromotion編集部(以下:編):チャンピオン獲得おめでとうございます。今シーズンを振り返ってみて、どんな1年でしたか?

中島漱也(以下:中島):そうですね、まず目標にしてたチャンピオンを獲れたことはすごく嬉しいです。それに加えて、今シーズンは1戦1戦レースを重ねるごとに成長していきたいという気持ちがあって、振り返ると、1年を通してその目標もちゃんとクリアできてたのかなと思いますし、去年の自分より精神面も技術面もレベルアップできたと感じています。

編:今シーズンを一言で表すと、どんな言葉が思い浮かびますか?

中島:「成長」ですかね。自分自身の成長が一番大きく感じられて、それが嬉しいです。

編:どの部分で成長を感じましたか?

中島:優勝回数など目に見える結果が一番わかりやすく感じましたが、それだけではなく、例えば、タイムアタック予選の順位が良いとか、スタートで遅れても追い上げられたとか、ホールショットの回数が去年よりも増えたとか、単に順位ではなく、練習や予選などの細かい部分が良くなっていて、それがメンタル面にもプラスになっていたなと思います。

結局、メンタルが安定する時は自分に自信がある時だと思うので、先ほど話したような小さな成功体験がメンタルに良い影響を与えていて、シーズン通して調子の良さを崩さなかったところにも繋がっていたのかなと思います。

編:開幕戦での優勝、ここでまず良い流れを掴んだように見えました。開幕戦に向けては自信を持って挑めていたのでしょうか。

中島:開幕前、2023年12月からアメリカへトレーニングに行かせてもらって、5週間ほど滞在しました。トレーニング期間でライディング技術が上がったと実感できたし、そこで得た成果を日本に持って帰ってこれたので、自信はもちろんありました。ただ、ライバルもみんなオフシーズンに練習を重ねてきていて、その中で誰が一番速いかが決まるのが開幕戦なので、最も勝ちたいという欲が出がちな大会だと思っています。なので、僕は最終戦よりも開幕戦を一番重要視して挑みましたね。

編:なるほど。周りの実力がわからないからこそ、探り探り状況を見極めていく段階だと。

中島:何回かレースを重ねると誰が速いとか、この人はちょっと今調子悪いとか、勢力図みたいなものがわかります。結果次第では自分の調子を落としてしまう危険もあるレースだったのですが、ミスが出やすいところをうまくコントロールできたのが今年の開幕戦でしたね。

編:去年の初優勝も開幕戦でしたね。

中島:そうですね。去年の開幕戦は3位/1位/8位で、結果にすごくばらつきがあったんです。それでギリギリ総合優勝って感じだったので、嬉しいけど、自分的にはまとめられなかった悔しさもありました。今年はその経験もあって自分のメンタルコントロールを意識していました。開幕戦はコースがすごい荒れていたのですが、その中でどれだけ自分の実力を出せるかというところに集中して、それが結果に繋がって総合優勝を獲得できたと思います。これが自信にも繋がりましたね。

編:開幕戦で自信がついてから、第2戦も完全優勝を収めましたね。

中島:第2戦・第3戦が行われたHSR九州は自分にとって得意なコースで、開幕戦で優勝して、そのまま自分の得意なラウンドに入れたので、自分に良い波が来ているなと思っていました。ただその段階ではまだあんまりチャンピオンを意識していなくて、調子の良さを決勝でも発揮するだけ、と考えていました。2戦目でピンピン獲れたのも、好調を維持できただけで、特に深いことは考えてなかったです。

編:かなり肩の力が抜けて挑めているように見えました。去年と比べてだいぶ気持ちを楽にして走れていたのでしょうか。

中島:第3戦まではそうですね。3戦目のマディレースではリザルトを落としてしまいました。元々マディコンディションは得意なので、むしろラッキーぐらいに思っていたのですが、クラッシュに巻き込まれたり、スタックしちゃったり、自分で回避できてたはずのミスが多かったです。

編:第3戦で横澤選手(IA2クラスランキング2位の#2横澤拓夢選手)が両ヒートともに優勝して、僅差でランキングトップが変わりました。

中島:いよいよ今年の勢力図が見えてきたというか、今年は拓夢くんとチャンピオン争いをするんだなと感じていました。ただ、開幕戦から優勝が続いていたので、そこまで不安には思わず、そのまま第4戦を迎えました。自分的にはこのレースが今シーズンのターニングポイントになっています。

ターニングポイントになった第4戦

編:第4戦がターニングポイントと感じる理由は何ですか?

中島:第4戦のヒート1で拓夢くんが1位、僕が2位という結果になりました。IB OPEN時代を振り返っても接戦をしてきたことがあまりなかったので、今年のようにチャンピオンをかけた僅差のバトルというのはモトクロス人生の中で初めてでした。そこで、負けちゃいけない時に負けちゃいけない相手に優勝を獲られて、自分が2位で、実力でちゃんと負けたことが悔しかったです。

開幕戦で優勝して、2戦目も優勝して、第3戦の結果も自分の中ではそこまで気にしていなかったのですが、第4戦のヒート1で負けた時に、ちょっと焦りというか、そこで初めて自分の中にあった自信も崩れて、できていたこともできなくなって。でもチャンピオン争いは僅差だから絶対勝ちたいっていう気持ちもあって……と、負のループにはまってしまって、2ヒート目は何回転けたかわかりません。

編:勝ちたいという意識が前に出すぎてしまっていたという感じでしょうか。

中島:そうですね。もうただ勝ちたいっていう気持ちが出てしまっていたと思います。今思うと、あの感じで勝てるわけないとわかるのですが(笑)。勝ちたいという思いが空回りしてましたね。その時は気づいていなかったです。もう転びすぎて、別にバイクに不具合があったわけではないのですが、自分の心が折れて、このレース走るのは無理だと思ってリタイアしました。自分でレースを諦めるという経験はこれまでなかったので、すごく考えさせられるレースでした。

編:レースをリタイアして、思うことが色々あったかと思います。

中島:チャンピオンを獲るために自分に足りてないところは何か、拓夢くんが持っていて自分に足りないものは何かとか、あんなレースはもう二度としたくない、もうこんな気持ちになりたくないって思って、じゃあどうするかというのをすごく考えました。

編:自分の心が折れると感じるほど、第4戦直後は気持ちが落ち込んだと思うのですが、第5戦での走りを見ると気持ちを切り替えて挑んできたと感じました。前向きになれたきっかけは何かあったのですか?

中島:チャンピオンを取りたいという気持ちはあるけど、今の自分だと取れないなって、第4戦を終えた時に思いました。振り返ると、第3戦で結果を残せなかったことをあまり深く受け止めていなくて。それによって第4戦でもミスをしたと気づきました。4戦目が終わった後は精神的に本当にきつかったのですが、この気持ちと向き合うことが次につながるのだろうと思って、現実と自分自身にしっかりと向き合いました。この時の反省が、後半戦の安定したリザルトに繋がったかなと思います。

編:具体的にどう向き合ったのでしょうか。

中島:ヒート1を2位で終えた後、自分がどういう気持ちだったのか、どういう気持ちで挑もうとしていたのか、その時の気持ちを思い出しました。

編:どんな気持ちでしたか?

中島:ただ勝ちだけを見てしまっていて、拓夢くんのことも意識していて、自分に集中できていませんでした。この気持ちはシーズン通して忘れないようにして、次同じように勝ち急いでしまう場面が来たときに、繰り返さず、打開できるように対策を考えました。

第5戦、ヒート1でトップを走る中島に横澤が迫る

編:モトクロスはメンタルスポーツですね……。第5戦も激しいトップ争いを展開していましたが、そこでは第4戦の時とは違う、一皮剥けた強さが見えたように感じました。反省が生かされたのでしょうか?

中島:第5戦北海道大会がまさに反省を生かす時でした。ヒート1で拓夢くんにラスト1周で抜かされるという、第4戦よりも悔しい負け方をしました。感情的にもなったのですが、今感じている悔しさが自分をダメにしたから、このままヒート2を走ると前回と同じ結果になってしまうと思ったんです。まさにあの時反省したことだ! と、こんなすぐ同じシチュエーションになるかと思うくらいタイムリーでした(笑)。

僕が2位で、拓夢くんが優勝。ヒート1を終えた時点で拓夢くんはもう5連勝していて、正直気持ちは勝たなきゃっていう方向にすごく引っ張られました。ただ、この精神状態での打開策を考えていたので、その効果があって優勝できました。自分の弱みを克服できたというか、昔の自分から変われたのは嬉しかったですね。

編:第4戦の悔しさがあったからこそ、ヒート2で逆転ができたと。

中島:反省を生かして気持ちを切り替えて、ライン取りやギヤ選びなど、とにかく自分のライディングに集中することを意識して走りました。

編:ヒート2では中島選手が横澤選手を抜かして、逆転優勝を果たしました。レース中から逆転を狙っていましたか?

中島:いえ、あのレース中は自分の走りに集中することだけを考えていたので、順位はあまり気にしていなかったです。勝ちたいとか、そういう欲は一度全部捨てて、良い走りをすることだけに集中したのが優勝につながったと思います。

編:なるほど、そこで一皮剥けて、残り3戦に繋がっていくわけですね。

中島:そうですね。振り返ると前半戦は割と怒涛でした(笑)。

実感のない3連勝

編:第5戦から第6戦までの間は2ヶ月ほどインターバルがあったと思います。そこではニュージーランドにトレーニングに行かれていましたね。

中島:ニュージーランドで自分の走りに磨きをかけさせてもらえて、後半戦勝ち続けるための準備はできていました。なので、後半戦の結果は自分にとっては驚くようなことじゃなかったです。メンタルコントロールをして、実力を出し切ることができれば勝てるという自信はあったので、ただ自分に集中するだけっていう感じでした。

編:後半戦も、自分に集中するという点はブレることなく、上手くまとめることができた、と。

中島:ただ、第7戦の結果は今もわけわからないままです(笑)。

編:第7戦で3ヒート全て優勝。直後にもインタビューさせてもらいましたが、そこでも実感がない、と話されていたのを覚えています。まさか今でもまだ実感が湧いてなかったとは(笑)。

中島:そうですね。もちろん3ヒート優勝は狙っていました。リザルトを一回でも大きく落としたらもうそこでシーズンが終わるっていう中で、地元大会というプレッシャーや、これが終わったら残すは最終戦だけというタイミング、ポイント差を縮めるならここだという場面で全ヒート優勝できたのは、正直僕もチームの人たちもみんなびっくりしていました。「え、3連勝できちゃったよ、ポイントランキング逆転しちゃったよ」みたいな(笑)。

編:ただその結果もあって、最終戦に向けて横澤選手をリードする立場になった。

中島:リードすることは本当に考えていなかったので、シーズンも終盤なのにずっとドキドキしていました。

夢にまで見た、人生が変わる一戦

編:最終戦直前にインタビューをさせてもらった時(https://mspro.jp/jmx/post/11434)もかなり緊張していると話していたのが印象的でした。

中島:自分的には緊張してないなと思っていたんですけど、1週間前になった瞬間に全然寝れなくなってしまいました。寝付きが悪いし、やっと寝れたと思っても、チャンピオンがかかったレースの夢を毎日見るようになっちゃって(笑)。

編:かなり追い詰められてますね! その夢ではどんな結果だったのですか?

中島:それが勝つのも負けるのもどっちもありました。優勝する夢もあるし、最悪な展開で終わる夢も見たり、それが1日じゃなくてしばらく続きました。最後の方は、寝てもまたレースの夢を見るしなあと思ったりもしました。

編:そんな緊張感の中、決勝当日はヒート1でチャンピオンを決定していました。プレッシャーも跳ね除けて見事な優勝でした。

中島:シーズン1年間を通して、自分の中で細かな成功体験がたくさんあったので、今年は上手くいってるという自信もあったし、流れは後半戦に入っても良かったから、全力を出すだけという気持ちでした。そう考えるとやっぱり一戦一戦が自分の成長に繋がるシーズンでした。レースをするごとに成長できて、一番最初に掲げた目標をちゃんとクリアできたと思います。結果だけじゃない、いろんな部分で成長を感じられました。

チャンピオン獲得を支えた環境

編:今年からジェイ・ウィルソン選手(2024年IA1クラスチャンピオン)が監督を務める若手育成プログラム「JW Innovation Racing Team」に所属されていました。かなり環境が変わったと思いますが、その影響はやはり大きかったですか?

中島:いやもう、めちゃめちゃ良い影響を受けました。

編:ウィルソン選手とともに練習をしたり、アドバイスを受けたり、海外トレーニングへ行ったり……、一年見ていただけでもサポートが手厚いなという印象を受けました。

中島:本当に環境が充実していました。IA1でトップを走るジェイさんからアドバイスをもらえる環境にいられるのは、自分にとってすごくプラスになりました。自分の目標として海外で活躍したいという思いがあるので、オーストラリアやAMAなど海外での経験が豊富なジェイさんの近くにいられることはすごく勉強になります。

編:特にどんな面でプラスになりましたか?

中島:レースだけじゃなくて一緒に過ごす中で、ライダーとしての過ごし方とか、練習メニューとか、自分がやっていなかったものも結構あって、新しい発見が多かったです。それを取り入れることで、練習の質が上がって、この1年間すごく充実していたなと思います。

今ある環境の中で自分が目指してる目標にどうやってたどり着くか、どれだけ質を上げていくかというところがすごく大切だったので、そこをジェイさんに教えてもらえたことが今年の成長に繋がっていると思います。

見据える先は海外、活躍のためのステップ

編:先程のコメントで「海外で活躍したい」という言葉が出てきました。

中島:自分的には海外に挑戦したい、海外で活躍したいという気持ちがあるし、年齢的にも今日本でチャンピオンを獲れていないとチャレンジが厳しいと思っていたので、1年でも早くチャンピオンになりたいという気持ちがありました。

編:チャンピオン獲得によって未来も変わる、まさに人生が変わる一戦だったのですね。ジュニア時代には海外でのレース経験も多かったとか。

中島:小学生の頃から海外でのレースにチャレンジしていて、1年のうち1ヶ月ほどを海外で過ごすというのを3〜4年ぐらい続けました。当時はWorld mini アマチュアモトクロスレースに出ていて、中学生の頃にはFIMワールドジュニアモトクロスチャンピオンシップに85cc・125ccそれぞれ日本代表として参戦したことがあります。

編:すると、やはり今後目指していくのも海外でのレース活動になる?

中島:そうですね。海外とのレベルの差を目の当たりにしているからこそ、日本で自分が勝ってても満足できない。海外はもっと速いし……と、意識の矢印は常に海外へ向いています。

編:今後の具体的な目標は?

中島:小さい頃から憧れてきたAMAの舞台で良い順位を残したいという思いがあります。ただ、今の自分がAMAに行っても何もできないというのはわかっているので、段階を大事にして、一歩一歩上に上がっていきたいという気持ちです。

編:そこは冷静に、将来を見据えているのですね。

中島:ただAMAのレースに出たいわけじゃなく、結果を残したい気持ちが大きいので、そのためには自分に何が必要かを考えています。あとは、モトクロス・オブ・ネイションズ(※年に一度開かれるモトクロスの国別対抗戦)に日本代表として出たいですね。自分はまだ出られていないので、そこも夢の一つです。

編:応援しています! 今日はありがとうございました。

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