全クラスともこの最終戦でチャンピオンが決定

D.I.D全日本モトクロス選手権シリーズの今季最終戦となる第2戦中国大会は、11月27日(土)~28日(日)に広島県の世羅グリーンパーク弘楽園で開催された。今季は全7戦が予定されていたが、第5戦近畿大会が中止。この第2戦は、本来なら5月上旬に実施予定だったが、大会名を変更することなく半年以上延期された。

広島県南東部の山中にあるコースは、自然のアップダウンを活かしたダイナミックなレイアウトが特徴。本来開催予定だった春に加えて、今大会の直前にも良質な土を搬入しながら入念なメンテナンスが実施された。乾くとかなり固く締まる路面だが、土曜日に一時小雨が降り、日曜日早朝には霜が降りたことから、土曜日と日曜日午前中は路面に適度な水分が含まれた状態。日曜日午後は土が乾き、ややハードで土ボコリが舞うコンディションとなった。

今大会は、異例の11月下旬開催とあって、日没を考慮したタイムスケジュールを導入。全日本格式で実施された各クラスの決勝レース時間は、それぞれ5分短縮された。

決勝レースが繰り広げられた日曜日の天候は晴れで、最高気温は11度。観客数は2日間で2,185名と発表されている。

【IA1】3年連続チャンピオンとなった山本鯨が引退を発表

全日本最高峰クラスとなるIA1は、5分短縮により25分+1周の2ヒート制。前戦終了時点で、ホンダのマシンを駆る山本鯨(#1)がランキングトップに立ち、これをヤマハファクトリーチームの富田俊樹(#2)がわずか1点差、さらに富田のチームメイトとなる渡辺祐介(#18)が18点差で追った。

決勝ヒート1は山本がホールショットを奪い、富田と渡辺、カワサキファクトリーチームの能塚智寛(#5)が続く展開。レース序盤から、この4台がカワサキのマシンを駆る安原志(#19)を先頭とした縦に長いセカンドグループを突き放して、トップグループを形成した。当初は山本が2秒ほどリードを奪い、富田と渡辺と能塚がより近い状態だったが、レースが中盤に入ると4台の間隔はそれぞれ1~3秒程度の範囲で増減を繰り返しながら推移。しかし10周目に、富田がトップの山本に1秒以内のところまで迫ったことで、雰囲気が一変した。翌周には4台の距離が縮まり、12周目には4台が2秒程度のギャップでほぼ等間隔に。そして13周目、能塚が渡辺をパスして3番手に順位を上げた。

迎えたラスト2周の14周目、4番手に後退した渡辺がグループからやや遅れる一方で、山本と富田と能塚が三つ巴の激しい接近戦を開始。まずは能塚が富田に迫ったが、ここは富田がポジションをキープすると、今度は富田が山本に仕掛け、ラストラップに入るところで富田がついにトップ浮上を果たした。しかし、すぐに山本が再逆転。もう一度山本のパッシングを試みた富田を、背後から能塚が狙いすまして逆転した。最終ラップのコース後半、能塚は山本に肉迫。しかし山本も必死に逃げ、最後はフィニッシュジャンプをほぼ並んで跳んだ。そして、わずか0.11秒差で山本が優勝、能塚が2位。最後に振り切られた富田が3位、渡辺は前の3台から完全に遅れて4位となった。ホンダのマシンに乗る小方誠(#4)が、1周目12番手から追い上げて5位。ヤマハを駆る星野優位(#8)が6位だった。

ヒート1の結果により、山本と富田は10点差。今季最終レースとなったヒート2で、富田が逆転チャンピオンになるためには、自身が優勝した場合でも、山本が4位以下になるのを望まなければならない状況だった。逆に山本は、富田がどんな順位であれ、その2ポジションダウンに留めればタイトル防衛が決まる。ヒート2のスタート直後、この富田と山本がいきなりバトルを展開。何度か激しいやり取りがあった後、左タイトターンの立ち上がりで富田が山本のラインを塞ぐように被せ、山本が転倒した。これにより富田がトップ、一方の山本はほぼ最後尾となる21番手からのレースに。それでも山本は諦めることなく、2周目に12番手、3周目に8番手、4周目には5番手と驚異的な追い上げを披露した。

一方の上位勢は富田と渡辺と能塚がトップグループで、やや離されて小方が4番手。富田は序盤に3秒ほどのリードを確保し、渡辺と能塚は僅差となった。6周目、能塚が渡辺を抜いて2番手浮上。ここから数周をかけ、能塚は富田との距離を詰めた。そして12周目から、富田と能塚がドッグファイト。この周は富田が順位を守ったが、翌周に能塚がパッシングに成功した。この段階で、山本は4番手。3番手を走る渡辺とはまだ約5秒の差があり、なおかつここまで数周はギャップがあまり減らなくなっていたが、富田が2位なら山本がチャンピオンになれる条件は6位以内に変わる。そしてレースは、最後まで粘る富田を振り切って能塚が優勝。富田が2位、渡辺が3位となった。山本は4位でチェッカー。これにより、山本の3年連続チャンピオンが確定した。

レース直後、山本は今季限りでの現役引退を電撃発表。「26年間、モトクロスライダーとして人生を歩んできましたが、30歳の節目を迎える今年で引退して、新たなキャリアを築きたいと思います。これまでのレース人生は本当に幸せでした。ライダーとしてやってきた以上に、今後の人生でモトクロスやバイクの業界に恩返ししたいです」と山本。何度も涙を見せつつ、これまで支えてくれたすべての人に、感謝の言葉を述べていた。

【IA2】ヒート1で年間タイトル確定の大城魁之輔が両ヒート制覇

ランキング2番手の内田篤基(#4)は、前々回の第6戦で負傷して以来のレース復帰。しかし、ランキングトップの大城魁之輔(#2)が前戦終了時点で31点リードし、なおかつ内田は本調子には遠い状況のため、大城のシリーズタイトル獲得がほぼ確実な状況だった。レース時間はIA1と同じく25分+1周に設定された。

決勝ヒート1では、予選トップ通過を果たしたIAルーキーの柳瀬大河(#34)が、1周目にトップ浮上。これを追った中島漱也(#10)を、5番手から追い上げてきた大城が3周目にパスした。3周目、大城が柳瀬を抜いて先頭に立ち、さらに約2.5秒のリードを確保。同じ周、森優介(#22)が中島に次ぐ4番手、大倉由揮(#6)が5番手に順位を上げた。大城はその後の数周で、アドバンテージを約4秒に拡大。一方で、2番手の柳瀬には中島が迫るもパッシングのチャンスを得られず、その間に2秒ほど離れていた森が中島との距離を詰めた。

大倉由揮(#6)

そして8周目から、中島と森が3番手争い。9周目に森が先行した。両者がバトルを展開する間に、2番手の柳瀬は3秒ほどのリードを得て、逆に5番手の大倉は中島に接近。翌周、大倉が中島の攻略に成功した。すると大倉は、勢いを保って今度は森との距離も詰め、11周目から2台のバトルが勃発。13周目に大倉が森を抜いた。レース中盤から終盤にかけ、柳瀬はトップの大城から5秒差程度のところで粘っていたが、残り2周となった14周目に肩を脱臼し、この影響で転倒。そのままリタイアとなった。同じ周、接近戦を演じていた森と大倉が接触して、森が転倒により7番手まで後退。レースは大城が勝利を収めてシリーズタイトル獲得を決め、大倉が2位、中島が3位、鈴村英喜(#15)が4位、川上龍司(#7)が5位、スポット参戦の田中雅己(#6)が6位となった。

決勝ヒート2は、内田がオープニングラップをトップでクリア。西條悠人(#5)とトップ争いを繰り広げたが、2周目には大城がこの2台を抜いて先頭に立ち、さらに鈴村も2番手で続いた。3周目には、大倉も西條を抜いて3番手。翌周には、鈴村と大倉が接近戦を展開して、大倉が2番手にポジションを上げた。大倉と鈴村がバトルを繰り広げる間に、トップの大城は3秒ほどリード。4~5周目にかけて、4番手を守る西條には森が肉迫。6周目には森が先行した。トップの大城と2番手を走る大倉とのギャップは、レース中盤には4~5秒まで拡大したが、その後は両者の間隔がほぼ保たれた。

鈴村英喜(#15)

大倉に抜かれて3番手に後退した鈴村は、しばらく大倉をマークしていたが、その後にやや離され、これで上位3台が単独走行に近い状態となった。鈴村から遅れた4番手の森には、レース後半になって田中が接近。そして12周目、田中が森を抜いた。さらに鳥谷部晃太(#35)も森をパス。このときすでに、森のマシンはトラブルを抱えており、翌周の途中でコースサイドにマシンを止めてリタイアとなった。そしてレースは、終始危なげない走りを披露した大城が再び優勝して、自身初となる両ヒート制覇を達成。2位に大倉、3位にはIA昇格6年目で初表彰台登壇となった鈴村が入賞した。田中が4位、鳥谷部が5位、一時は5番手を走行した中島が6位でフィニッシュした。

【IBオープン】鈴木龍星が逆転でシリーズタイトルを獲得!

ランキングトップで今大会を迎えた町田勘太(#53)が、レース途中のアクシデントで組別12位に終わり、まさかの予選落ち。これにより、138点の鈴木龍星(#47)、131点の伊藤晃(#48)、130点の村野晟弥(#50)が実質的にはチャンピオンを争うことになった。決勝は、いつもより5分短縮の15分+1周。土曜日午後に実施されたヒート1は鈴木のホールショットで幕を開け、鈴木、藤井一輝(#57)、山田康介(#28)、村野、溝口寿希也(#36)、桒垣竜斗(#68)、田中淳也(#55)、伊藤の順で1周目をクリアした。桒垣は2周目以降に順位を下げ、2周目には田中が6番手、伊藤が7番手に浮上。3周目には、トップの鈴木と2番手の藤井はそれぞれ2~3秒のリードを確保し、3番手以下は山田、村野、田中、溝口、伊藤までが縦長で続いた。

4周目以降、トップの鈴木と2番手の藤井はさらにリードを拡大。山田は3番手をキープし、村野と田中は接近戦を繰り広げた。溝口は前と離されはじめ、後方には伊藤が肉迫。6周目の段階で、鈴木と藤井はそれぞれ6秒ほどのアドバンテージを確保し、3番手を走る山田のすぐ背後に田中、そこから4秒ほど遅れて村野、さらに5秒ほど後方には1周目11番手から追い上げてきた那須愛斗(#59)が上がってきた。7周目、藤井がコーナーで転倒。復帰するまでの間に山田と田中が先行した。これで鈴木のリードは約14秒に。最終ラップの10周目までそのまま逃げ切った鈴木が優勝し、これでランキングトップに立った。8周目に山田を抜いた田中が2位。山田が3位、藤井が4位、村野が5位、那須が6位、伊藤が7位となった。これで鈴木が163点、村野が141点、伊藤が140点で最終レースを迎えることになった。

日曜日に実施された決勝ヒート2は、シリーズタイトル獲得が懸かった鈴木がホールショット。シーズン前半はアメリカでトレーニングしていたためにチャンピオン争いにこそ加わっていないが、速さはこのクラストップレベルにある田中が2番手で続いた。さらに溝口、有山大輝(#2)、桒垣や山田や藤井が上位勢。2周目、鈴木を田中が1秒ほどの差でマークしながら、溝口を先頭とする3番手以下を早くも引き離し始めた。2周目には、溝口の後方に有山と山田と藤井が続き、この4台が7番手以下を離してセカンドグループを形成。4周目には、有山に代わり藤井が溝口を追う4番手に浮上した。

5周目、藤井が溝口を抜いて3番手にポジションアップ。しかしこの段階で、鈴木と田中のトップ2台は約13秒も先行していた。6周目には、藤井に続いて山田も溝口の攻略に成功。さらに有山も、再び溝口のパッシングを狙った。1~2秒差で膠着状態だったトップ争いは、8周目に田中が鈴木との距離を詰め、翌周には激しいトップ争いがスタート。すると最終ラップとなった10周目、鈴木が単独で転倒を喫した。これにより田中が優勝、再スタートした鈴木が2位でフィニッシュ。この瞬間、鈴木のシリーズタイトル獲得が決まった。3位には藤井、4位には山田、5位には9周目に溝口を抜いた有山が入賞。さらに、最終ラップで大塚貴斗(#32)も溝口を抜き、6位入賞を果たした。

【レディース】川井麻央は両ヒートで転倒を喫するもV2達成!

レディースクラスは、今季第3戦以来となる1大会2ヒート制を導入。ただし前回が土曜日にヒート1、日曜日にヒート2だったのに対して、今回は日曜日に2レースが実施された。レース時間は、いつもより5分短い10分+1周。このため、各ヒートは6周でチェッカーとなった。

決勝ヒート1は久保まな(#3)がホールショット。前戦で鎖骨を折るケガを負った影響が残る小野彩葉(#4)が2番手で続くも、濱村いぶき(#14)に次ぐ6番手まで順位を下げ、穂苅愛香(#7)が2番手、本田七海(#2)が3番手、ポイントリーダーの川井麻央(#1)が4番手で1周目をクリアした。2周目、川井が2番手、本田が3番手に浮上。ここから川井は、3秒ほど先行する久保の追撃を開始すると、徐々にギャップを削っていった。

そして4周目には、久保と川井が僅差のトップ争いを開始。ところがラスト2周となった5周目、川井が単独で転倒を喫して5番手まで後退した。これにより2番手に浮上した本田に対して、トップを守る久保のリードは約5秒。そのまま残り約1周半を逃げ切った久保が今季2勝目を挙げ、本田が2位に入賞した。最終ラップには、1周目7番手から追い上げてきた楠本菜月(#5)と、本調子から遠い状態で粘る小野、転倒から復帰した川井が3番手争い。これを制した川井が3位、小野が4位、楠本が5位となった。濱村は6位となった。

決勝ヒート2は、再び久保がホールショット。これで久保は、シーズン後半に実施された全日本の決勝4レースすべてでホールショットを獲得した。この久保に濱村、小野、穂苅、本田が続くも、穂苅は1周目に後退。22点の大量リードを得て、シリーズタイトル獲得がほぼ間違いない状態でこのレースに臨んだ川井は大きく出遅れ、11番手あたりからのレースとなった。それでも川井は、1周目に6番手までポジションアップ。ところが2周目、転倒により12番手まで後退した。

本田七海(#2)

一方も先頭争いは、久保を本田と楠本が追う展開。レースが後半に入ってもこの状態が続き、5周目あたりから久保と本田の接近戦が激しさを増した。そして最終ラップにかけ、本田が久保をパスし、一度は久保が抜き返し、さらに本田が逆転するデッドヒート。楠本はこの2台からやや遅れた。そして最終的には、本田が前でチェッカー。本田が2019年以来かつ今季初の勝利を挙げ、久保が2位、楠本が3位となった。川井は4位まで追い上げてフィニッシュして、無事にV2を確定。レース終盤に小野を抜いた濱村が5位、小野は6位となった。

【チャイルドクロス】電動クラスが始動。総合優勝は安藤龍太郎

安藤龍太郎(#24)

キッズライダーが参加するチャイルドクロスは、国内メーカー製マシンで参加できるAクラスに19台、海外ブランドの2ストマシンでエントリーできるBクラスに1台、そして電動のEクラスに1台の合計21台がエントリー。レースは、ラップタイムが1分30秒ほどになるようショートカットされたコースで、8分+1周により競われた。レースは唯一のEクラスとなる矢木杏奈(#82)、Aクラスの阿部哲昇(#81)と安藤龍太郎(#24)の好スタートで幕を開け、まずは安藤がトップ浮上。矢木が2番手、阿部が3番手、Aクラスの森近那津(#72)が4番手、同じくAクラスの中村夏乃(#7)が5番手で1周目をクリアした。

2周目以降、矢木や森近が先頭に立ちながら接近戦の2番手争いを繰り広げる一方で、トップの安藤は9秒ほどまでリードを拡大。終盤には2番手の森近がラップタイムを上げ、後続を振り切りながら安藤に近づいたが、レース前半のリードを有効に活かした安藤が総合優勝を獲得した。森近は総合2位、中村の追撃を振り切った矢木が総合3位。以下4位に中村、5位に阿部、6位にはこちらもAクラスに参戦した壬生かりん(#19)が入った。

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