2025年はポイントスケールが変更され、最終戦までチャンピオンシップ争いが白熱した。その激闘を制し、チャンピオンに輝いたライダーたちはどんな想いで今シーズンを戦ってきたのか。チャンピオンインタビュー第3弾では、IB OPENクラスのタイトル争いを制した#14笹谷野亜 (TKM motor sports いわて/ホンダ CRF250R)に今シーズンを振り返ってもらった
IA昇格をかけて競い合うIB OPENクラス。2025年を振り返ると、8人の優勝者が生まれる激闘の年だった。さらに今年からIA昇格枠が「上位10位以内」から「上位5位以内」に変更されたことで、トップ争いは熾烈を極めた。
そんな中、見事チャンピオンを獲得したのが青森県出身、高校3年生の#14笹谷野亜(TKM motor sports いわて/ホンダ CRF250R)だ。シーズンを通して勝利数は1回と少ないものの、常に上位に入る安定感と勝負強さを発揮し、ランキング2位の#2島袋樹巳との僅か2ポイント差のチャンピオン争いを制した。
今シーズン、どんな想いを持って挑んだのか。チャンピオン獲得後に「プロとして走りたいと思うようになった」「人生計画が変わった」と語る笹谷の、これまでとこれからに迫る。
モトクロスを始めたきっかけ
JMX Promotion:チャンピオン獲得おめでとうございます。今シーズンを振り返る前に、まず笹谷選手がどんなライダーなのか深堀りしたいと思います。そもそもモトクロスを始めたきっかけは何ですか?
笹谷野亜(以下:笹谷):モトクロスを始めたきっかけは、僕の父ですね。バイクが好きで、昔モトクロスをやっていたらしく、僕をモトクロスバイクに乗せてくれたのが始まりです。
JMX Promotion:何歳から乗り始めたんですか?
笹谷:5歳ぐらいからです。いきなり「バイク乗ってみる?」という感じで始まりました。初めて乗ったのは河川敷で、記憶は曖昧ですが、最初の頃はずっとその辺でバイクに乗っていました。
JMX Promotion:その後、レースにも出場するようになったのですか?
笹谷:はい。そろそろコースデビューしようということで、近くのモトクロスコースに行くようになって、乗り始めて半年後ぐらいに初めてレースに出ました。自信満々で挑んだんですけど、当日が雨で。その時のことを自分は覚えていないんですけど、スタート直後に転んで、もう乗れない!ってバイクから降りて逃げていったらしいです(笑)。この話は今でも地元の知り合いとかに言われます。
JMX Promotion:地元は東北地方でしたよね。
笹谷:はい、青森県の八戸です。最初のレースは逃げて終わりましたが、そこで嫌になることはなく、その後も乗り続けていました。県内のシリーズ戦だったり、全道や東北選手権に出て、現在は全日本に挑戦しているという流れです。
JMX Promotion:インタビューをするにあたって笹谷選手のレースを振り返ったところ、実は2023年にD.I.D全日本モトクロス選手権第5戦と併催された全道モトクロス選手権第4戦千歳大会で、笹谷選手の走りを取材していました。当時はNAクラスで総合優勝をしていましたね。
笹谷:そうですね。その年はNAクラス2年目の時ですね。その後昇格して、今年でIB OPENクラス2年目です。
怪我明けで迎えた2年目

JMX Promotion:笹谷選手はIB OPENクラス1年目の最終戦で怪我をしてしまったと聞きましたが。
笹谷:去年の最終戦の予選で右肩を脱臼してしまいました。そのレースはリタイアして、シーズンオフですぐ手術しました。手術したのが11月の中旬ぐらいで、ちゃんと乗り始められるようになったのは3月中旬だったので、全日本が開幕する1ヶ月ほど前に本格的に乗り始めたって感じです。
JMX Promotion:怪我明けでの復帰、不安はなかったのでしょうか?
笹谷:結構不安でした。また肩が外れたらどうしようという気持ちがすごくあって、転ぶのが怖くて無意識に肩を庇ってしまう走りをしていました。だいぶ怖かったですね。
JMX Promotion:その不安を乗り越えるきっかけはなんだったんでしょうか?
笹谷:青森は、シーズンオフに入る冬時期は雪でコースを走ることができないので、砂浜で練習することが多いんです。ある日、いつもの砂浜で練習している時に転倒したのですが、砂浜ということもあって転んでも怪我はなくて、「あれ、転んでも大丈夫じゃん」って実感して、強張っていた気持ちも楽になりました。 「いけるぞ」と思えたことで、土のコースを走っても不安はなくなりました。
実力拮抗の2025年、コンタクトレンズが飛躍のきっかけに

JMX Promotion:第2戦で早くも大きな転機が訪れた。
JMX Promotion:今年のIB OPENクラスは、昨年活躍したライダーたちに加えて、新たに地方選手権からも実力の高いライダーたちが集まって、かなり混戦でした。開幕前に、他のライダーを意識していましたか?
笹谷:去年上位で走っていた選手や、ジュニア・NAから上がってきた選手たちは意識していました。特にジュニアから飛び級してきた髙木選手(#57髙木碧)は速いですし、125ccで戦うという噂も聞いていたので、今年のトップ争いに絡むだろうなと不安もありました。
JMX Promotion:ただ、笹谷選手の戦績を振り返ると、第2戦SUGO大会で初表彰台、第3戦で初優勝を獲得していて、シーズン序盤から存在感をアピールしてましたよね。
笹谷:第2戦はチーム(TKM motor sportsいわて)の地元ですし、自分の地元からも近かったので、肩が治ってからはほぼ毎週練習に行っていましたし自信がありました。ヒート1はスタート直後に転倒しましたが、そこから追い上げて表彰台に上がれたので、ここでかなり自信がつきました。
笹谷:はい。ただ、今年一番走りや結果に繋がった理由が何かというと、実はコンタクトレンズデビューしたことなんです(笑)。
JMX Promotion:第3戦でインタビューさせてもらった時にお話していましたね。
笹谷:元々は裸眼で走っていたのですが、眼科へ行ったら視力がかなり悪いことが分かって、開幕戦の前の週にコンタクトデビューしました。
JMX Promotion:やっぱりコンタクトレンズをつけたことで、走りも変わりましたか?
笹谷:かなり変わりました。特に去年のレースは結構マディコンディションが多かったじゃないですか。そのマディ路面のレールやギャップが見えなくて苦労したのですが、今年は見えるぞという自信も相まって、調子が一気に上がりました。
後半戦で負った怪我、2ポイント差のチャンピオン争い

JMX Promotion:第4戦もヒート2で2位を獲得し、ランキングトップで後半戦に入りました。第5戦近畿大会でもヒート1で4位、ヒート2で2位に入る健闘ぶりでしたが、足を骨折していたんですよね……?
笹谷:第5戦ヒート2で足を骨折してしまいました。転倒はしていないのですが、変に足をついてしまって、その衝撃で折れた感じです。ヒート1が始まって10分ほど走ったところで骨折してしまったのですが、痛みを感じながら走りました。その大会では島袋選手が速くて、ランキングも近かったので、なんとか差を詰められないように走っていました。
JMX Promotion:第6戦までの期間もそこまで開いていなかったので、最終戦まで怪我の影響はかなり大きかったのではないですか?
笹谷:第5戦が終わってすぐ手術して、第6戦の前の週にようやくバイク乗れるようになりました。 バイクにまたがってしまえばそれほど苦ではないのですが、ブーツを履いて締め付けられるのがもう痛くて。テーピングと痛み止めでなんとか乗り切りました。
JMX Promotion:そんな中でオフロードヴィレッジのビッグジャンプを飛んでたんですね……。
笹谷:あそこはみんな飛んでいたので。ただ着地の衝撃が直で来たので、我慢するしかなかったです(苦笑)。
JMX Promotion:その痛みを抱えながら第6戦は6位/5位。最終戦までランキングトップは保っていましたが、ランキング2位の島袋選手とは2ポイント差と超僅差でした。最終戦前の心境はいかがでしたか?
笹谷:チーム員や仲の良いライダー、東北の知り合いの人などから「頑張れ」とか「チャンピオンなれるよ」とかたくさん声をかけてもらったのですが、同時にすごくプレッシャーを感じていました。もうとにかく勝たないといけないっていう気持ちが強くて、結構緊張していましたね。でも身体が固くなるというのはなかったので、とにかくいつも通り行けば大丈夫だろうって思っていました。
JMX Promotion:結果3位/2位と両ヒート表彰台に登ってチャンピオン獲得。この瞬間はどんな気持ちでしたか?
笹谷:最後の周は本当に転ばないようにと意識していました。本当は1位で終わりたかったし、あと3〜4秒でトップに追いつきそうだったので、ゴールした瞬間は嬉しい気持ちに加えて少し悔しさがありました。
JMX Promotion:最終戦の時にはまだチャンピオンの実感がないと話していましたが、少し時間が空いた今、その実感はありますか?
笹谷:シーズン終えてからいろんな人におめでとうと言ってもらえて、やっとチャンピオンになれたんだなって実感が湧いてきました。
JMX Promotion:改めてこの一年を振り返って、どんなシーズンでしたか?
笹谷:今年は自分にとって大きな変化の年でした。環境や周りのメンバーも含めて、良い方向に大きく変わった一年だったと感じています。
チャンピオン獲得で人生計画が大きく変わる

JMX Promotion:IB OPENクラスに参戦するにあたって、IA昇格後のレースキャリアも見据えて今シーズンに臨んだのでしょうか。
笹谷:まずはIA昇格圏内に入ることを目指して挑みました。ただ、今年が高校卒業の年なので、A級に昇格できたらこれを区切りにして、一度バイクから離れようかと考えていました。
JMX Promotion:なるほど。
笹谷:最後だから頑張ろうと取り組んでいったら、調子が上がってランキングも上位になってきて、今年の結果につながりました。
JMX Promotion:A級昇格と同時にレースから離れるつもりだったとは思ってもみませんでした。
笹谷:はい。ただ、調子が上がってトップ争いもできるようになって、「プロで走りたい」という気持ちが強くなりました。
JMX Promotion:高校卒業後、もともとは別の進路を考えていたんですか?
笹谷:最初は専門学校に進学する予定で、来年の全日本はスポット参戦をする方向で考えていました。そんな中、第3戦で優勝できて、自分の覚悟が決まりました。そこからは来年IAクラスで走ることを見据えて、トレーニングも追い込みましたし、チャンピオンへの意識も高くなりました。
JMX Promotion:人生計画としても大きく変化があったんですね。
笹谷:そうですね。来年はもっとモトクロスに集中できるように、進学ではなく就職することにしました。新しい環境でレース活動を続けていくので、今年以上に大変になると思いますが、IAルーキーイヤーで失うものはないと思っているので、開幕戦からガツガツ攻めていきたいです。
JMX Promotion:2026年の目標は何ですか?
笹谷:目標としては、チーム監督の拓夢さん(2025年IA2クラスランキング4位 #2横澤拓夢)と並んで走れるぐらいにはなりたいです。あとは、「なんかすごいルーキー来たぞ」って思われるような走りができるように頑張ります。上位陣の壁は厚いですが、乗り越えていきたいです。
JMX Promotion:来シーズンが楽しみですね。
笹谷:来年はIB OPENチャンピオンとして挑むプレッシャーもかかってくると思うので、それに負けない走りをしたいです。応援よろしくお願いします!
