​​2025年はポイントスケールが変更され、最終戦までチャンピオンシップ争いが白熱した。その激闘を制し、チャンピオンに輝いたライダーたちはどんな想いで今シーズンを戦ってきたのだろうか。チャンピオンインタビュー第2弾では、IA2クラスで2連覇を達成した #1中島漱也(YAMAHA BLU CRU RACING TEAM TAKA/ヤマハ YZ250F)が、1年を通して感じた成長と想いを語る

2025年のIA2クラスを振り返ると、2024年王者の中島漱也がディフェンディングチャンピオンとして出場、強豪・ブライアン・シューとともにトップ争いを繰り広げたシーズンだった。また、#4田中淳也(YAMAHA BLU CRU RACING TEAM YSP浜松/ヤマハ YZ250F)と#14吉田琉雲(Bells Racing/ホンダ CRF250R)が台頭し、それぞれが自身初優勝を獲得するなど、シーズンを通して実力を伸ばし、結果に繋げるライダーが多く見られた。

そんな中、クラス内最多の優勝回数で2連覇を達成したのが中島だ。ディフェンディングチャンピオンとして戦い抜いたこの1年間は、順調なように見えて、プレッシャーとの戦いであった。一方、開幕前にはニュージーランドで、インターバル期間にはアメリカでトレーニングを積み、ついにはモトクロスの国別対抗戦「モトクロス・オブ・ネイションズ(MXoN)」の日本代表に初めて選抜されるなど、海外経験も一気に増えた。

着実に成長を続ける中島は、この一年どのような想いを持ってレースに挑んだのか。2連覇の先に見据えるものは何か。

あえて選んだIA2クラス、チャンピオン防衛のプレッシャー

JMX Promotion:改めて、2連覇おめでとうございます。まずお聞きしたいのですが、IA2クラスでチャンピオンを獲得したライダーは翌年IA1クラスにステップアップする流れが多い中、今年もIA2クラスで走ろうと決めたきっかけは何ですか?

中島漱也(以下:中島):世界を見ると自分よりも速いライダーがたくさんいて、250ccでも自分はまだ世界で通用するレベルじゃないというのはわかっていました。これは自分の感覚なのですが、250ccに乗って速い人は450ccに乗っても速いというイメージがあって。逆に言うと、450ccから急に世界で活躍できるライダーになる道があまり想像できていませんでした。このまま450ccにマシンを乗り換えてしまったら、自分のライダーとしてのレベルが決まっちゃいそうな気がしたので、250ccでもっと成長したいと思い、IA2クラスへの参戦を決めました。

JMX Promotion:250でまだまだ成長できるという強い想いがあったんですね。2025年シーズンを振り返ってみて、率直にどんな一年でしたか? ‎

中島:総合的に見たらすごく良いシーズンでしたし、自分の目標に近い結果が残せたのかなと思っています。”1番”のゼッケンをつけて走るシーズン、絶対にチャンピオンを獲らなきゃいけないというプレッシャーの中でまず2連覇できたのは、嬉しいですしホッとしました。

JMX Promotion:プレッシャーを乗り越えてちゃんと結果を残す強さはさすがです。具体的にどんな目標を掲げていたのですか?

中島:「一戦一戦成長する」ということを自分の目標としていました。振り返ってみるとそれも実感することができた1年でした。

JMX Promotion:ディフェンディングチャンピオンとしてのプレッシャーもかなり大きかったですよね。

中島:そうですね。これまで経験してきたものとはまた違うプレッシャーを感じました。今までは自分より速いライダーがいて、そこにチャレンジしていくという構図だったのが、今年は自分が立場を守らないといけなかったので、今までで一番チャンピオンを意識してしまいました。

JMX Promotion:守りの意識が強くなっていたのでしょうか。

中島:今年からポイントスケールが変更になったことで、今までよりもレースで大きいミスができなくなっていて、1ヒート落としただけでもすぐに差が縮まってしまう。そういう面でも、特に最初はすごく守りに入りがちでしたし、マイナスなことをイメージしてしまう時間は去年よりも多かったです。 ‎

JMX Promotion:なるほど。そんな中でも第2戦から連勝を重ねて、レースでの走りを見ると勢いに乗っているように見えました。‎

中島:レース中は割と切り替えることができたので大丈夫でしたが、レース前とかは特にメンタルが守りに入りたくなってしまって、緊張もいつも以上にしていました。このメンタルの切り替えが今年の自分の課題でした。ただ、こういう立場にならなかったら学べなかったことなので、一年乗り越えて、さらに強くなれたと思います。 ‎

シュー、田中、吉田。ライバルの存在が大きな影響を与える

#53ブライアン・シュー

JMX Promotion:2025年はトップ争いも熾烈でした。ライバルの存在は意識していましたか?

中島:はい。特にブライアン(※1)の存在は、自分の中ですごく大きいですね。自分よりも実力が上のライダーなので、一つのバロメーター的存在になっていました。開幕戦は2ヒートとも勝てずに終わって、第2〜3戦は彼が欠場したので、4戦目の中国大会が開幕戦以来の対決でした。そこで総合優勝を獲ることができましたが、相手のトラブルや転倒があったし、スピードは彼の方が全然上でした。

JMX Promotion:レース後にインタビューをした際、かなり悔しがっていたことを覚えています。

中島:悔しかったですね。ただ、そこからインターバル期間を挟んで迎えた第5戦で、結構バトルすることができたんです。この大会も相手のマシントラブルで最後まで戦うことはできなかったのですが、競り合えたことは自信になりました。そして、その後の第6戦で、競り合った末に抜き返すことができたんです。あれは本当に嬉しかったです。

※1:ブライアン・シュー:ドイツ出身のライダー。2025年はイタリア選手権と並行して参戦し、常にIA2クラスのトップを走る実力を持つ

JMX Promotion:まさに一戦一戦着実に成長をしていますね。

中島:ブライアンとの実力差を感じている中で、一歩ずつ近づいて結果に結びついたことが自分的には一番嬉しいですし、今シーズン無駄にならなかったなって思えました。 ‎

#4田中淳也、#1中島漱也

JMX Promotion:今年IA2クラスでは、田中選手と吉田選手が初優勝を飾っていたシーンも印象的でした。シュー選手を追うだけでなく、2人の勢いというのもレースの中で感じていたのではないでしょうか?

中島:そうですね。まず2戦目のSUGO大会は田中選手に追い詰められました。あれは自分にとってターニングポイントになったレースでした。

ブライアンが欠場していたのですが、田中選手の調子がすごく良くて、ヒート1は田中選手にめちゃくちゃ後ろから詰められました。僕も走りが硬くて、全然いい走りができなくて……。レース後にかなり考え込みました。

JMX Promotion:具体的に何を考えたのでしょうか?

中島:今年何のために走ってるのか、というところですね。ちゃんと自分の中で目標があって選んだ道なのに、走りでそれを証明できない状態が第2戦のヒート1でした。

JMX Promotion:精神的にも追い詰められていた、と。

中島:なんていうか、チャンピオンを獲らなきゃいけないという意識が強すぎたんです。ただ、第2戦で「チャンピオン以前にこんな走りと気持ちじゃ成長できない」と感じて、だったら転んでもチャンピオン獲れなくても、自分が納得できる走りに集中した方がいいと吹っ切れました。

JMX Promotion:なるほど。結果だけ見ると両ヒート優勝して良い調子に見えましたが、葛藤があったのですね。

中島:そうですね。これまで自分が追っていく立場しか経験したことがなかったので、自分より若くて速いライダーとトップ争いをするという、立場や環境の違いに戸惑いました。

JMX Promotion:去年と同じIA2クラスでも、環境はガラリと変わっていたのですね。

中島:ただ、シーズンを通して全日本はもちろん、アメリカやMXoNなど海外での経験も得て、自分のことをなんでこんなに出来上がってると思ってたんだろう、と改めて考えました。チャンピオンになったとはいえ、自分もまだ成長の途中なのに、守りに入るのは違うなと。

JMX Promotion:無意識的に守りに入ってしまっていた?

中島:そうですね。その気づきはありました。あとは先ほども言いましたが、ブライアンの存在が大きかったです。守りに入ると勝てない相手なので、彼に勝つために常にチャレンジャーとしての意識を持てましたし、受け身じゃないレースをすることができました。

吉田琉雲優勝時

JMX Promotion:ライバルと切磋琢磨することが、中島選手の成長に繋がっていたのですね。

中島:はい。また、田中選手とか吉田選手については、最初は「負けちゃいけない相手」として意識していました。だからこそ守りに入ってしまったりしたのですが、後半は「ライバル」として見れてたかなと思います。 ‎

JMX Promotion:「負けられない相手」と「ライバル」はどのように違うのですか?

中島:「負けちゃいけない」というのは後ろ向きな意識で、自分を高めることに意識が入っていないんですよね。それに対して「ライバル」は、勝つためにはどうしたらいいか、と意識できる。実際、琉雲に名阪で負けた後も、次どうやればああいうレースじゃなくなるのかと前向きに考えていたので、かなり違いがありました。‎

インターバルで変わったライディング

#80 中島漱也

JMX Promotion:第2戦でターニングポイントを迎えて、インターバル期間を経たシーズン後半戦(第5戦から)は特に大きく成長しているように見えました。インターバル期間で何か変わるきっかけがあったのでしょうか?

中島:自分にとってインターバル期間は、ライディングスタイルやこれまでやってきたことを見つめ直して変える時間でした。また、第6戦の前に出場したMXoNでも自分の中で新しい発見みたいなものがありました。これらを取り入れて行った結果だと思います。ただ、第6戦までの期間が短かったので、自分が見つけたスタイルを取り入れるのがめちゃくちゃ難しくて。MXoNから帰ってきた後はだいぶ苦戦していました。

JMX Promotion:新しいスタイルというのは、これまでとはかなり変わるものなんですか?

中島:自分の走りをずっと見てる人だったらわかるかな、というぐらいの変化です。今年は開幕前のシーズンオフにニュージーランドへ行って、インターバル期間とMXoNでアメリカに行きました。この3回の海外経験が自分の中ですごく成長できる期間だったし、少しずつ良い方向に変えられたと思います。ただ、自分のやりたいことがあっても時間がなかったり噛み合わないという状態で第6戦に臨みました。

JMX Promotion:とはいえ、第6戦ではシュー選手とのバトルを制したりと調子が悪そうには見えませんでした。

中島:レース中に噛み合った感じでしたね。土曜日のフリープラクティスは全然うまくいかなくて苦戦してたのですが、レースでは満足できる走りができました。 ‎実際、スタイルを変えることが良い方向につながるのかどうかは、レースでの結果を見ないとわからないので、不安も抱えながら挑んでいます。新しいライディングでブライアンに勝つことができたという結果は、今シーズンの中でも一番嬉しかったです。

JMX Promotion:具体的にはどう変化したのでしょうか?

中島:ちょっと難しいんですけど、自分の取り入れたかったライディングは割とアメリカンなスタイルでした。元々安定感重視のライディングが自分のスタイルだったんですけど、その代わりに一発の瞬発的な速さがないのが課題で悩んでいました。1周のタイムを見たらブライアンより2秒遅いとか、そういうのが当たり前だったし、MXoNでもやっぱり自分の瞬発的なスピードのなさを感じたので、そこを後半戦で身につけたいと練習を重ねました。

JMX Promotion:先ほど話していた、噛み合わない部分というのはどんなシーンで見られたのでしょうか?

中島:瞬発的な速さを意識してるとライディングが雑になっちゃう部分があって、安定感のある自分の強みが逆に崩れてしまいました。そのバランスがなかなか取れずにいたところで第6戦のフリープラクティスを迎えて、あまりにも噛み合わなくてたぶん3回ぐらいコースアウトしてました。

JMX Promotion:それは知りませんでした!

中島:噛み合ったという明確なきっかけがあった感覚はなくて、レース本番の集中した環境の中で走って、コツを掴んだ感じですね。 ‎

第6戦、シュー選手を追い詰める

JMX Promotion:フリープラクティスで上手くいかないと決勝に向けてだいぶメンタルにも影響がきそうですが、そこは平気だったのですか?

中島:そうですね。この走りをレースでやったらやばいなという不安はすごくあったんですけど、切り替えは上手くいきました。

JMX Promotion:気持ちの切り替えが上手いですよね。メンタル面においてアドバイザーなどがついていたりするんですか?

中島:いや、いないですね。強いていえば、自分の父が結構堅実というか、一戦の勝利よりも、チャンピオンシップを考えた戦い方をしろって言ってくれる人で。自分は逆に一戦一戦こだわって勝ちにいきたくなるタイプなんですけど、そこをいき過ぎないようにアドバイスをくれるので、良いバランスが保てているんじゃないかなと思います。 ‎

JMX Promotion:なるほど、冷静かつ‎安定感のある走りはその影響があったんですね。

中島:たぶん自分の気持ちだけで突っ走ってしまったら大きいミスや、もしかしたら怪我とかもあったかもしれないと思います。しかも第6戦は3ヒートあったので、ここを大きく落とさなければ、残り2ヒートでポイント差的にも楽になる状況でした。

MXoNから帰ってきたばかりで、現地で得た刺激を生かして良い走りをしたい、もっと攻めたいという気持ちが前に出てた時期だったので、気持ちが先走って噛み合わなかった部分があったところを、父がしつこく正してくれたから、良い走りになったのかもしれないです。

最終戦を振り返る

JMX Promotion:MXoNでの経験や、新しいライディングが噛み合っての第6戦優勝など、良い流れで最終戦を迎えていたように思います。ただ、当日は走りが硬くなってしまったと話していました。やはり、チャンピオンがかかった最終戦は緊張感があったのでしょうか?

中島:正直去年の最終戦よりも緊張していました。去年はチャンピオンになるには勝つしかなかったので、そこに向けて集中していたのですが、今年は優勝しなくてもチャンピオンを獲れてしまう状況でした。この余裕が自分の集中力の妨げになっていた気がします。

JMX Promotion:去年とは全く違う状況での最終戦でしたね。

中島:今年ももちろん勝ってチャンピオンを決めたいという想いはありました。ただ、ポイント的にも1ヒート落としたら一気にチャンピオンの可能性がわからなくなる状況だったので、緊張感がありました。いつも通り走ればいいと思うのですが、いつも通りってどんなだっけ? みたいな(苦笑)。攻めきれなかったですね。 ‎

JMX Promotion:なるほど。ヒート1は4位で終わりましたが、ヒート2は優勝で締めくくりましたね。

中島:あのままヒート2も同じような走りをしていたら、チャンピオンとして笑われるなという気持ちがありましたし、勝って終わりたいと思っていました。とはいえ、チャンピオンが決まって肩の荷が降りたというのが、ヒート2で伸び伸び走れた一番の理由だと思います。‎

チャンピオンになって変わったこと

JMX Promotion:2年連続チャンピオンを獲得して、変わったことはありますか? ‎

中島:そんなに大きく変わった感じはしてないですね。ただシンプルに自分に自信を持てるようになりました。2年連続というのも、実際に挑戦してみてすごく難しい経験でした。だからこそ、それを達成できたというのは自信に繋がります。また、この2年間で、一個一個自分の課題をクリアしてシーズンを終えられているので、チャンピオンになる前と比べると、自分のライディングに対する自信はかなりあると思います。

JMX Promotion:いいですね。しかも、今年は色んな経験をしてさらに伸びしろを感じているところですよね。 ‎

中島:そうですね。自分の目標としている海外への挑戦も、今年経験することができて、少し近づけたと思うとワクワクします。 ‎振り返ってみて、改めていいシーズンだったと思います。学びや経験、成長が詰め込まれた一年だったと思います。そしてそれをちゃんと生かして自分のものにできた実感があるので嬉しいです。

2026年に向けて

JMX Promotion:最後に、来シーズンの目標を教えてください。

中島:来年もやることは変わらないです。どこで走ろうが何に乗ろうが、今年と同じように、世界のレベルにどれだけ自分が近づけるかというのを、どんな環境でも意識して走るだけです。あとは、やっぱりMXoNに行ったことで、あの舞台で結果を残したいという気持ちがさらに強くなりました。来年も選んでいただけるようにレベルアップしていきたいです。

JMX Promotion:ありがとうございました!

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