11月1〜2日、D.I.D全日本モトクロス選手権シリーズ2025がついに最終戦を迎える。舞台は宮城県にあるスポーツランドSUGO。起伏を生かしたコースレイアウトが特徴で、SUGOの名物セクションである最大傾斜30度の大坂や20m超のビッグジャンプ、テクニカルな攻防戦が見られるヨーロピアンセクションなど、各所でのバトルは見応えがある。また、開催クラスは公認クラスのIA1・IA2・レディース・IB OPENに加えて、承認クラスのジュニアクロス(JX)とチャイルドクロス(CX)の6つ。公認クラスは全て今回でチャンピオンが決定するため、誰がタイトルを手にするのか、決定の瞬間をぜひ会場で見てほしい。
また、今大会には海外から4名のライダーがスポット参戦する。IA1クラスには、2025年FIMモトクロス世界選手権MXGPクラスチャンピオンを獲得したロマン・フェーブルと、同大会MX2クラスフル参戦1年目にして最高3位を獲得したイタリア出身のバレリオ・ラタ、そしてタイモトクロス選手権MX1クラスチャンピオンのJiraj Wannalak(通称:ニモ)の3名が出場する。さらに、IA2クラスにはインドネシア出身のMuhammad Arsenio Algifar(ムハンマド・アルセニオ・アルギファー)が参戦。世界トップクラスの走りを目の前で見る貴重なチャンスは見逃せない。
IA1
世界王者が参戦。ウィルソンは自身3度目のIA1チャンピオンを狙う

IA1クラスは通常より5分短縮の25分+1周の2ヒート制で行われる。前戦第6戦では、#1ジェイ・ウィルソン(YAMAHA FACTORY RACING TEAM/ヤマハ YZ450FM)が3ヒート中2勝をあげ、開幕戦からランキングトップを保っている。また、ヒート3では、ウィルソンが転倒により後退。ここで劇的な逆転勝利を収めたのが#4大倉由揮(Honda Dream Racing Bells/ホンダ CRF450R)だ。最終ラップ直前で2位に浮上すると、さらにペースを上げてトップを走る#47Jiraj Wannalak(Honda Racing Thailand Team/ホンダ CRF450R)(通称:ニモ)に迫りパス。その勢いは前の周のラップタイムを1.5秒上回るスピードで、勝利への意地が強く出た結果であった。
注目のチャンピオン争いは、ポイントランキングトップの2人にほぼ絞られる。第6戦終了時点でウィルソンが488pt、ランキング2位の大倉が452ptということで2人の差は36pt。最終戦は特別規則として獲得ポイントが3ポイント上乗せされるため、最大38pt×2ヒート=76pt 獲得できることになる。これを踏まえると、以下の表のような可能性が浮かんでくる。
| 大倉の最終戦結果 | 合計pt | 逆転成立ライン(ウィルソン ≤) | ウィルソンの例 | 判定 |
| 🥇1位+1位 | 76 | ≤39pt | 例:1位+15位(38+1)など | ✅ 逆転可能 |
| 🥇1位+2位 | 73 | ≤36pt | 例:2位+18位(35+1) | ✅ 逆転可能 |
| 🥇1位+3位 | 71 | ≤34pt | 例:2位+19位(35+0) | ✅ 逆転可能 |
| 🥈2位+2位 | 70 | ≤33pt | 例:3位+20位(33+0) | ✅ 逆転可能(ただしJAY大崩れ必須) |
| 🥇1位+4位 | 69 | ≤32pt | 例:2位+20位(35+0) | ✅ 理論上可能だが現実的には厳しい |
| 🥇1位+5位以下 | ≤67 | ≤30pt以下 | 例:JAY両ヒート20位圏外レベル | ❌ ほぼ不可能 |
大倉が逆転するかどうかはウィルソンの結果次第となり、大倉が両ヒート1位(完全勝利)かつウィルソンがどちらかのヒートでDNFまたは20位以下という2つの条件が揃えば逆転できるという状況だ。なお、ランキング3位の#8大城魁之輔(YAMAHA BLU CRU RACING TEAM YSP浜松/ヤマハ YZ450F)にもチャンピオン獲得の可能性は残っているが、両ヒート優勝かつウィルソンがノーポイントで終えない限り逆転は厳しいだろう。


なお、先述した通り、今大会IA1クラスには3人の海外ライダーがスポット参戦する。2025年の世界王者に輝いた#3ロマン・フェーブル(Team Kawasaki R&D/カワサキ KX450SR)は、経歴を遡ると、2020年から2024年までの間にMXGPランキングで2位を2回、4位と5位を一度ずつ獲得しており、常に世界の最前線で活躍を続けてきた。また、フェーブルは10年前にもIA1クラスにスポット参戦した経験があり、今回が全日本モトクロス選手権への参戦2回目となる。


また、今年FIMモトクロス世界選手権MX2クラスにフル参戦を果たした#118バレリオ・ラタ(HONDA HRC/ホンダ CRF450R)も出場する。ラタはイタリア出身の20歳。2019年85ccクラス世界チャンピオンであり、2021年にはヨーロッパ125ccクラスチャンピオンを獲得、イタリア選手権では2度のタイトルを手にするなど若い頃から実績を残してきた。世界選手権では2024年にEMX250クラスに出場しランキング2位を獲得。さらに2025年にはMX2クラスにフル参戦し、最終戦で自身初表彰台となる3位入賞を達成した。今回の参戦についてHRCは「ラタは2026年もMX2参戦予定だが、経験値を上げるために450にて参戦する」とコメント。勢いに乗るラタが450ccでどんな走りを見せるのかにも注目だ。

さらに、第6戦に引き続き、タイ出身のニモが出場する。第6戦ではヒート3で好スタートを決め一時トップを走行。前戦を振り返りニモは「途中でトップが転倒したことで優勝するチャンスがきましたが、由揮(#4 大倉由揮)が迫ってきていることに気づかず、ペースを落としてしまいました。自分史上最大のミスで悔しいですが、最終戦は優勝を目指します」と意気込んでいる。
世界のトップライダーと全日本ライダーたちの絡み、またチャンピオンシップの行方はどうなるのか。かなり見応えのあるレースとなるだろう。
IA2
チャンピオン争いは中島と田中の一騎打ち

IA2クラスも25分+1周の2ヒート制で行われる。第6戦では#53ブライアン・シュー(Auto Brothers/GASGAS MC250F)が2勝、#1中島漱也(YAMAHA BLU CRU RACING TEAM TAKA/ヤマハ YZ250F)が1勝を飾った。シューに話を聞くと、実はスポーツランドSUGOを走ったことがないという。第5戦以降マシンを新たに用意して調子を上げてきた彼は、今大会もトップ争いを繰り広げるであろう優勝候補の1人だ。

一方、#1中島漱也(YAMAHA BLU CRU RACING TEAM TAKA/ヤマハ YZ250F)は10月3〜5日に行われたモトクロス・オブ・ネイションズ(MXoN)での経験を糧に第6戦を迎えた。ヒート2ではシューと接戦を繰り広げ、トップを守り切り優勝を獲得。最終戦もレースをリードするだろう。
| 田中の最終戦結果 | 合計pt | 逆転成立ライン(中島 ≤) | 中島の例 | 判定 |
| 🥇1位+1位 | 76 | ≤28pt | 例:7位+11位(27+1) | ✅ 逆転可能 |
| 🥇1位+2位 | 73 | ≤25pt | 例:8位+14位(26−1) | ✅ 逆転可能(中島崩れ前提) |
| 🥇1位+3位 | 71 | ≤23pt | 例:9位+15位 | ✅ 理論上可能だが厳しい |
| 🥈2位+2位 | 70 | ≤22pt | 例:10位+15位(21+1) | ✅ 逆転可能(中島大崩れ必要) |
| 🥇1位+4位 | 69 | ≤21pt | 例:10位+17位 | ❌ ほぼ不可能 |
| 🥇1位+5位以下 | ≤67 | ≤19pt以下 | 例:DNFレベル | ❌ 不可能に近い |
なお、チャンピオン争いは、ランキングトップの中島と2位の#4田中淳也(YAMAHA BLU CRU RACING TEAM YSP浜松/ヤマハ YZ250F)の2人の一騎打ちとなる。第6戦終了時点で中島が469pt、田中が422ptでその差は47ポイント。中島が大きく順位を落とさない限りはチャンピオン獲得が決まる状況だ。例えば田中が両ヒート優勝し、中島が2ヒート合計28pt以下(=10位+13位以下)なら逆転が可能。つまり中島が両ヒートとも10位圏外、または1ヒートDNFならタイトル獲得ライダーが入れ替わる可能性がある。
https://www.instagram.com/arsenioalgifari914
また、今回はインドネシアのAstra Honda Racing Teamより、#54ムハンマド・アルセニオ・アルギファー(Astra Honda Racing Team/ホンダ CRF250R)が出場する。ムハンマドはインドネシアの国内選手権でチャンピオンを獲得した経験があり、2024年にはインドネシアで開催されたFIMモトクロス世界選手権MX2クラスにスポット参戦し、総合20位という結果を残している。トップ争いにどう絡んでくるのか、レースの行方から目が離せない。
IB OPENクラス
笹谷vs.島袋、チャンピオン争いは僅か2pt差。IA昇格ラインとなる5位争いも激戦に

実力伯仲のバトルが繰り広げられているIB OPENクラス。第6戦を振り返ると、ヒート1では、デビュー戦となった#91永澤匠真(YSP浜松 with BABANASHOX/ヤマハ YZ125)が地元・#54外間大詩(T.E.SPORT/ホンダ CRF250R)からのアタックを耐えきり、いきなり優勝を獲得。レース後に黄旗無視としてペナルティが与えられ2順位降格となったが、その速さとテクニックで存在感を示した。一方ヒート2は外間が追い上げ勝利を収めた。ヒート1は繰り上げでの優勝となったが、ヒート2でしっかりとその実力を見せつけた。
シーズン終盤にも関わらず初優勝を獲得するライダーが生まれるほど混戦のIB OPENクラスだが、チャンピオン争いとIA昇格ラインの5位争いもかなりの僅差となっている。
| 島袋の最終戦結果 | 合計pt | 逆転できる最大合計 | 判定 |
| 🥇1位+1位 | 76 | ≤73 | ✅ 逆転可能(笹谷が2位+2位以下なら) |
| 🥇1位+2位 | 73 | ≤70 | ✅ 逆転可能(笹谷が3位+3位以下なら) |
| 🥈2位+2位 | 70 | ≤67 | ✅ 逆転可能(笹谷が3位+4位以下なら) |
| 🥈2位+3位 | 68 | ≤65 | ✅ 逆転可能(笹谷が4位+4位以下なら) |
| 🥇1位+5位 | 67 | ≤64 | ✅ 逆転可能(笹谷が4位+5位以下なら) |

特にランキングトップの#14笹谷野亜(TKM motor sports いわて/ホンダ CRF250R)は344pt、#2島袋樹巳 (Yogibo PIRELLI MOUNTAIN RIDERS/カワサキ KX250F)は342ptと両者ほぼ互角。最終戦は1ヒートごとの着順がそのままチャンピオン獲得、シリーズランキングへつながる状況だ。またランキング3位につけている#58名島玖龍(レーシングチーム鷹/ヤマハ YZ250F)は324ptで、笹谷とは20ポイント差。名島が両ヒート優勝、かつ笹谷と島袋が10位圏外またはDNFなど大きく結果を落とすとタイトル獲得の可能性が見えてくる。
| 酢崎の結果 | 合計pt | 髙木がどこまでなら逆転可能か |
| 🥇1位+1位(76pt) | 333pt | 髙木が6位+6位(28+28=56pt, 総316pt)以下なら逆転 |
| 🥇1位+3位(71pt) | 328pt | 髙木が8位+8位(26+26=52pt, 総312pt)以下なら逆転 |
| 🥈2位+2位(70pt) | 327pt | 髙木が8位+9位(26+25=51pt, 総311pt)以下なら逆転 |
| 藤本の結果 | 合計pt | 髙木がどこまでなら逆転可能か |
| 🥇1位+1位 | 332pt | 髙木が7位+7位(27+27=54pt, 総314pt)以下なら逆転 |
| 🥈2位+2位 | 327pt | 髙木が8位+9位(26+25=51pt, 総311pt)以下なら逆転 |
| 🥇1位+3位 | 328pt | 髙木が8位+8位(26+26=52pt, 総312pt)以下なら逆転 |
チャンピオン争いに加えて、IB OPENクラスはIA昇格ラインとなるランキング上位5位を巡る争いにも注目が集まる。第6戦終了時点でランキング5位につけているのは#57髙木碧(BLUCRUレーシングチーム鷹/ヤマハ YZ125)で260pt。6位の#15酢崎友哉(成田MXパーク アシタプランニング/カワサキ KX450)は3ポイント差の257ptで、さらに#9藤本琉希亜 (ウィリー松浦 with AXIS/ヤマハ YZ250)が酢崎と1ポイント差で256ptと、5〜7位の3名が僅差で並んでいる。髙木は順位を大きく落とさなければ逃げ切れる一方で、1ヒートでも落とすと酢崎と藤本に逆転の可能性を与えてしまう。また、酢崎と藤本は両ヒート上位入賞(2位〜3位)+髙木がミスした場合、チャンスが訪れる。
チャンピオン獲得、そしてIA昇格。各ライダーにプレッシャーがかかる中、最後に笑うのは誰か。一瞬も油断できない熱戦を、ぜひ会場で最後まで見届けてほしい。
LMX
川井が全戦優勝でのチャンピオン獲得なるか

レディースクラスは#1川井麻央(T.E.SPORT/ホンダ CRF150RⅡ)が第6戦で連勝記録を「6」に伸ばし、ランキングトップを一度も譲ることなく最終戦を迎える。コースについて川井は「スポーツランドSUGOはすでに事前練習に行っていて、調子も良かったです。残り1戦チャンピオン狙って頑張ります」とコメントし、最終戦に向けて好調を示している。
なお、チャンピオン争いは川井が210pt、2位の#6箕浦未夢(TEAM ITOMO/ホンダ CRF150RⅡ)が175ptでその差は35ポイント開いており、川井は決勝でノーポイント(DNSまたはDNF)にならなければチャンピオンが決定する。川井にとって余裕のある状況ではあるが、箕浦をはじめライバルたちは優勝を狙って最後まで攻めてくるだろう。また、全戦優勝してチャンピオンを獲得したレディースライダーは、近年を振り返ると2020年の川井のみとなっている。しかし当時はコロナ禍ということで全4戦という少ないラウンド数で行われていたこともあり、川井にとって全勝でのチャンピオンは今シーズンの目標でもある。自身の目標を達成することはできるのか。最後まで目が離せない。
第7戦(11/1〜2)
◾️D.I.D 全日本モトクロス選手権シリーズ2025 第7戦 第63回 MFJ-GP モトクロス大会 情報
