全日本モトクロス選手権(JMX)は、国内モトクロスレースの最高峰に位置するレース。中でもIA1クラスともなるとそこに参戦している選手たちは、日々練習に励み地方選手権で成績を残し勝ち上がってきた猛者ばかり。そんな強者どもが鎬を削るJMXに家族みんなでエントリーするファミリーがいるんです!
お父さん、お母さん、お子さんと、JMX史上初となる家族3人でエントリーするのは福岡県在住の高原ファミリー。お父さんの高原佳紀(たかはら よしき)さんはIA1に、お母さんの央(かな)さんはレディスクラスに、お子さんの琉生(るい)くんはチャイルドクロスにそれぞれエントリーしています。どんなご家族なのか気になるところ。さらには琉生(るい)くんが所属するチームでメカニックを担当している元カワサキ レーシング チーム(K.R.T.)のライダー溝口哲也選手にもインタビューを遂行! モトクロスを始めたきっかけや、モトクロスだからこそ味わえる面白さ、これからモトクロスを始めてみたい人へのアドバイスなどを伺いました。
父親でありIA1ライダーの高原佳紀さん
「MXから離れた期間が自分を成長させました」
IA1 #39
高原 佳紀(たかはら よしき) 34歳
所属:福岡県
チーム:with T-factor
車両:SUZUKI RM-Z450
まずは、IA1に出場する高原佳紀さん。なんと弟さんの秋斗さんもIA1ライダーなんです。さぞかしバイク好きなファミリーで育ったのかと思ったら、モトクロスとは意外な出会いだったんです。
「私が子どもの時、家族でバイクに乗っている人はいなかったんです。たまたま近所のバイク屋さんに小さいモトクロスマシンがあって、私の父が『乗ってみる?』と聞かれたのが始まりだったんです。当時6歳だった私はほとんど覚えていないですけどね(笑)」。
お父様はクルマ好きだったことからバイクにも興味はあったようです。とはいえ、全くバイクのことについて分からないから、最初はいろいろ大変だったとか。
「最初は走り方もよくわからず周りで走っている人の見様見真似でした。父もバイクのことが分からないので近くのバイク屋にアドバイスを求めにいって、私にアドバイスをくれる、というように手探りでやっている感じ(笑)。レースを始めてからはモトクロスレースをやっている周りの人が練習に誘ってくれるようになって、地元の九州選手権にも出るようになりました。
そうして高校1年生の時にモトクロスが楽しくなくなり、『辞めたい』と両親に伝え、モトクロスから完全に離れたんです。練習しても結果が出ず伸び悩んでいたんですよね。でも、同年代の仲間がレースに出ているのは気になるわけでして(笑)。『あいつがそんな成績出せるなら、俺もいい成績出せるぞ!』といてもたってもいられなくなり、高校2年生でまたレースに復帰したんです。あとは、お世話になっていたバイク屋さんの『もう一回やってみないか?』と声をかけてくれたのも、そのタミングにちょうど合致したんですよね」。
再びレース活動を再開し、現在までモトクロスレースを続けている高原佳紀さん。モトクロスの魅力とは何なのでしょうか?
「練習の成果がしっかりと結果に結びつくと、楽しくなりますよね」。
レースから離れたことで、自分に足りないもの、すべきこと、将来象など、自分と向き合う機会ができたことが大きかったようです。
現在34歳の佳紀さん。様々なスポーツの中でも極めて体への負荷が高いモトクロスレースに30代で挑むというのは、肉体的にきついこともあるはず。走る上で気をつけていることとは?
「ころんでも怪我をしない体作りですね。仕事をしながらなので、バイクに乗るのは週に1〜2回程度。なので筋トレは欠かせません。それとしっかりと自分の思い通りに走るバイクの整備も当然重要です」。
モータースポーツの中でも特に動きの激しいモトクロスレース。その一番の見どころはどこでしょう?
「横一列のスタートですね。観客のみなさんを含め会場全体が静まり返り、エンジン音だけがそこにこだまする中、一斉に選手たちがスタートするのは興奮すると思います。それとバイクが高く舞うジャンプですね」。
レースを見たら自分も走ってみたくなるものです。これからモトクロスを始めたい人はどうしたらいいでしょう?
「モトクロスはバイクやウエアなど揃えるものが色々と必要です。ですので、まずはHSR九州のように全てレンタルできるところでデビューするのがいいと思います。そういうところで数回試してみて、もっと乗りたいとなったら自分のバイクを購入するのがいいんじゃないでしょうか」。
母親でありLMXライダーでもある高原 央さん
「自分も乗っているから子どもの練習の止め時がわかるんです」
LMX #22
高原 央(たかはら かな)
所属:福岡県
チーム:グリーンシャドウ
車両:KAWASAKI KX85Ⅱ
続いて、お母さんでLMXにエントリーしている高原 央(たかはら かな)選手に始めたきっかけなどを聞きました。
「もともと私の両親がエンデューロレースに参戦していたんです。それもあって、バイクは非常に身近な存在でした。乗り始めたのは9歳で、それから妊娠期間を除いてずっとバイクに乗っています。バイクに乗れない妊娠期間中に初めてレースを気兼ねなく見ることができました(笑)。それまではレースを見ると〝こういうラインで走るんだ!〟といったように、どうしても自分が走ることに重ねていたんです。やっぱりモトクロスが好きなので、出産を経てまたモトクロスに復帰してスタートラインに並んで、あの独特の緊張感に包まれた時に〝戻ってきた!〟と感慨無量になりました」。
母親でありモトクロスライダーでもあるからこそ分かる、お子さんとモトクロスを楽しむときのポイントはありますか?
「練習をしているとどうしても熱くなりがちですよね。琉生(るい)も走るのが大好きで、『もう帰るよ』というと彼は泣きながら『まだ走る!』いうほどなんです。どんなに気持ちは走りたくても、体がついてこないことは誰でもあると思います。そんな時、自分も乗っているから〝これ以上いくと転ぶぞ!〟というのが分かるります。無理をして大きなケガをさせないタイミングで、練習を止めることができることは大きいと思います」。
なお現在でもレースで戦うための体力を保持するため、筋トレとランニングは欠かさないそうです。
チャイルドクロスで戦う高原琉生くん
「ジャンプが楽しい!」
CX #61
高原 琉生(たかはら るい)8歳
所属:福岡県
チーム:with T-factor
車両:YAMAHA PW50
お父さん、お母さんがモトクロスをしているという環境の中、現在8歳の琉生(るい)くんはストライダーには3歳から、ほとんど時を同じくして自転車にも3歳から乗り始めたそうです。そして4歳の時に自宅にあったキッズ用モトクロスバイク(50cc)にお父さんが試しに乗せてみたのが、モトクロスを始めたきっかけでした。
「モトクロスではジャンプが楽しい! それとコーナーが得意です。BMXにも乗っていてウイリーの練習をしています。好きな選手はマイカルチャンプで、Tシャツも持っています!」
何よりも走るのが楽しいという琉生くん。全日本モトクロス選手権シリーズに参戦することで、全国にお友達ができたとも話してくれました。
元カワサキ レーシング チーム(K.R.T.)のライダー溝口哲也選手
「スポーツのひとつとして楽しんで欲しいですね」
IA2 #54 メカニック担当
溝口哲也(みぞぐち てつや) 42歳
所属:福岡県
チーム:with T-factor
車両:KAWASAKI KX250
1995年 IB チャンピオン
2003年 IA2 チャンピオン
最後にインタビューをしたのは、元カワサキ レーシング チーム(K.R.T.)のライダー溝口哲也選手。現在はモトクロスチーム〝with T-factor〟の監督を務め、全日本モトクロス選手権シリーズ第6戦のHSR九州ではIA2クラスにエントリー!
「3歳でBMXに乗り始め、モトクロスは5歳から乗っていました。30歳でレース活動を引退した後は、後進の育成を現在まで行なっています。息子もモトクロスをやっていて、そのサポートもしています。ただ、今回with T-factorの手助けもあって、親父の背中をみせるじゃないですけど、息子と同じくレースにエントリーしました(笑)。年齢も42歳なのでバイクに乗る練習だけじゃなく、体作りとしてジムで30分ランニングして、筋トレなどもやっています」。
元IA2チャンピオンだからこそ、やるからにはキッチリやるという姿勢には頭が下がる思いです。
これからモトクロスを始めてみたい人はどうしたらいいでしょう?
「琉生くんのお父さん、佳紀さんもおっしゃていたように、バイクと装具が全て借りられるHSR九州のような施設で、体験走行してみるがいいと思います。思ったより気軽にモトクロスって始められるんです。いろいろなスポーツがあるなかの一種としてモトクロスにも触れて、楽しんで欲しいですね。レースで順位を残すことばかりが全てではないですし、ファンライドをして楽しんでいるかたたちもたくさんいます」
最後にモトクロスの魅力とはなんでしょう?
「わかりやすい魅力といったら〝ジャンプ〟ですね。空中でのフォームの違いを見るのも面白いです。それと、横一列のスタート。緊張感と迫力はモトクロスならではなので、初めて観戦する人にはぜひ見てほしいですね」。
高原ファミリーと溝口哲也選手に話をお聞きしましたが、みなさん口を揃えて「スタートが魅力」とおっしゃっていました。会場に足を運ぶかたはもちろん、YouTubeチャンネルでもレースの模様を放送しているので、スタートに注目して観戦を楽しみましょう!!