2024年、ライバルとのバトルを戦い抜き、チャンピオンに輝いたライダーたちは、今シーズンをどう振り返るのか。チャンピオンインタビュー第3弾では、レディースクラスチャンピオンの#1川井麻央(T.E.SPORT/ホンダ CRF150RⅡ)に話を聞いた

レディースクラスのチャンピオン争いは、毎年最終戦にまでもつれ込み、今年も例に漏れず苛烈を極めた。新進気鋭の若手ライダーたちが頭角を表し、表彰台に登る中、確固たる強さと存在感を示したのが、クラスの中でチャンピオン経験のある#1川井麻央と#2本田七海だった。

本田は2019年にチャンピオンを獲得。一方川井は2020・2021・2023年とこれまでに3度チャンピオンに輝き、両者共に2024年もチャンピオンの座を狙っていた。しかし、川井は開幕戦でノーポイントからのスタートとなった。「これまでのモトクロス人生で一番大変だった」と語る2024シーズンをどう乗り越え、そしてチャンピオンの座に輝いたのだろうか。

2024年は予期せぬノーポイントから始まった

JMXPromotion編集部(以下:編):チャンピオン獲得おめでとうございます。

開幕戦から今シーズンを振り返っていきたいと思います。

まず、2024年はどんな気持ちで挑んできたのでしょうか?

川井麻央(以下:川井):2024年は開幕戦が地元で、応援に来てくれる人も結構いたので、シーズンの中でも少し特別で、しっかり結果を出さないと、という気持ちがありました。また、開幕戦で勝つことができれば良い流れを作れるので、しっかり結果を残せるようにシーズンオフに乗りこんで、調子を上げて挑みました。

編:実際、開幕戦のレースは快勝でしたね。

川井:開幕戦はシーズンオフに周りがどれくらいレベルを上げてきたのかというのがわからないままレースを迎えるので、緊張感もありました。ただ、シーズンオフで怪我をすることもなく迎えられて、レース本番も調子良かったです。スタートから2コーナーまでは競っていましたが、その後は単独走行で終えることができました。自分にとってはすごく余裕のあるレースでしたね。

編:ただ、レース終了後に国内競技規則 付則15 32-1-4に該当するとして失格、ノーポイントとなり、波乱の幕開けでした。

川井:マシンについてはメカニックに全て任せていて、私は用意してもらったマシンで勝つ、というスタイルで戦ってきました。なので、開幕戦の結果は正直かなり動揺しました。ただ、あの結果があったからこそ、今まで以上にチャンピオンを獲りたいという気持ちが芽生えました。規則違反となってからの周りの目や声はちゃんと感じていて、だからこそチャンピオンを獲らなかったら何を言われるかわからない、と思って1年間頑張れた気がします。

編:なるほど。それでもかなりメンタルにダメージを受けているようでしたが、第2戦・第3戦に向けてはどのような気持ちだったのでしょうか?

川井:悔しさと悲しさと、いろんな感情があって、開幕戦が終わってからは、もう正直ここでバイク辞めてもいいかな、と思っていました。ただ、年間のスケジュールを見た時に、開幕戦が終わって次の週にHSR九州大会の事前練習に行く予定が組まれてたんです。開幕戦でのことがあって気持ちは結構落ちていたので、正直そこにも行くか悩んだのですが、すでに飛行機とか宿とかを手配していたので、チームとも話し合って、とりあえず九州には行くと決めました。

編:とりあえず、というのは?

川井:自分の気持ちとしては、乗りたくなければ無理に乗らず、3日間遊ぶ予定に変更しても良いなと考えていました。自分は土日の事前練習の前に金曜日に遊ぶ日を作っていたし、乗りに行くと考えると気持ちが落ちてしまう自分もいたので、とりあえず遊びに行こう! という感覚でした。

編:無理をしない、という心の切り替えはすごく大事だと思います。事前練習までに気持ちは回復したのですか? 

川井:全然回復してなくて、金曜日に熊本に着いて、チームのパドックの設営があったのですが、知ってる人に会いたくなくて嫌だなあと思いながらコースに向かっていました。ただ、みんな特に何か言ってくるわけでもなくて、それで心が軽くなったというのもあります。

編:なるほど。結局は事前練習に参加したのですか?

川井:はい。自分のクラスは4台ぐらいしか走る人がいなくて、その少なさもあって気楽に乗ることができました。乗ってみると調子も良くて、その感覚があったから次も頑張ろうって思えました。

編:第2戦に向けては前向きな気持ちで挑めたのでしょうか。

川井:第2戦で勝たないと何言われるかわからないと思って挑みました。自分が勝てなかったせいで色々言われるのが本当に嫌で、どうすればいいのか考えた時に、やっぱり結果で見せるしかない。そう思って挑みました。

編:第2戦・第3戦と優勝を獲得。気持ちを切り替えて2連勝、なかなかできることではないと思います。

川井:第2・3戦で勝てたのは本当によかったと思います。しかもドライとマディ、両日それぞれ違うコンディションで優勝できて、すごく嬉しかったですね。

第2・3戦はイレギュラーな日程で、土日に1戦ずつの開催は初めての経験でした。土日2日間どうやって身体を作っていいかというデータもなかったし、これをやったらいけるという自信になるものもなかったので、不安ではありました。ただ、それでも勝てたから、自分の自信になったし、強さを改めて示すことができたと思います。あの2連勝が一番嬉しかったですね。

「勝てばいい」。マシン不調で追い込まれるも、周りの声に支えられた後半戦

編:第2戦から連勝を重ね、後半戦へ。近畿大会では4位となりました。この第6戦が一番悔しい大会と話していましたが、なぜでしょうか?

川井:その時は特に公言していなかったのですが、マシンの調子が悪くて、今まで自分のバイクに起こったことがない症状だったので、何が原因なのかわからなくて、結局予選も決勝も調子が悪いまま走り切りました。

編:それでも結果は4位で終えていましたね。

川井:自分の身体の調子が悪いわけじゃないし、でもタイムが出ないし……。もうその大会はどうすることもできなくて、ただただ悔しかったです。でもマシンが止まらなかっただけマシだと思いますし、あの状況でも4位に入れたのはよかったです。

編:後半戦最初の大会だったために、そこで結果を出せなかったのは悔しいですね。

川井:夏のインターバル期間には会場である名阪スポーツランドへたくさん乗り込みに行っていたし、チャンピオン獲るには一戦も落とせないという気持ちで挑んでいたので、後半戦で出鼻を挫かれた感じで少し落ち込みました。でも、チームや周りの人が「あと2戦勝てばチャンピオン獲れるから!」と前向きに声をかけてくれて、そのおかげでブルーな気持ちを切り替えることができました。

編:たしかに、近畿大会の次はオフロードヴィレッジ、地元大会でしたね。

川井:そうなんですよ。第6戦を終えた時点で残りのラウンドが、地元のオフロードヴィレッジとスポーツランドSUGOという、自分の好きなコースでした。後半戦になって一戦の重みがさらに増して、色々考えてしまっていたのですが、周りからかけてもらった言葉のおかげで「勝てばいいんだよな」と心が軽くなりました。

編:たしかに、それは真理ですね。

川井:振り返ると、2023年もそんな感じだったんですよ。あと2戦勝たないとチャンピオン獲れないみたいな。これまで経験してきたことだし、勝たないといけないことには変わりないので、勝つことにだけ集中しました。

編:開幕戦の後にバイクを辞める選択肢も出てくるほど気持ちが落ち込んでいたと思いますが、そこから最後まで頑張れたのはやっぱりそのチャンピオンを獲るという目標があってこそなんですね。

川井:そうですね。その目標はこれまで戦ってきた中で一切ブレていないです。レースになってしまえば、走りに集中して他のことは考えられないので、レース前に何か思っていたとしても、自動的に気持ちを切り替えてレースをしていました。

編:今回のインタビューに向けてこれまでのレースを遡って調べたのですが、最終戦は毎回本当に接戦で、驚きました。

川井:本当に、楽に逃げ切る、というシーズンはないですよ(笑)。

編:毎年接戦をくぐり抜けてきている中で、2024年はどんな一年でしたか?

川井:うーん、そうですね、モトクロス人生で一番大変なシーズンでした。シーズン中はこれまで感じてきたプレッシャーとはまた違う、面白くない、という気持ちがありました。走ることもレース自体も好きですし、レース中は楽しいのですが、レースが終わった後に色々起きる。自分は15分というレースの中で戦ってるのに、その後の色々がレースのメインとして扱われているみたいで、それが自分は嫌でした。それでも最後まで戦い抜いて、最終的にチャンピオンを獲ることができてよかったです。

4度目のチャンピオン。重なるプレッシャー

編:川井選手にとって今回が4度目のチャンピオンですね。少し遡ってお聞きしたいのですが、初めてチャンピオンを獲った時のこと覚えていますか?

川井:初めてチャンピオンになったのは2020年で、コロナ禍のさなかでした。レースも全4戦しかなかったのですが、全レースで優勝を飾ってチャンピオンを獲得できました。その年の開幕戦で3年ぶりに優勝できて、そこから勢いを掴んだ感覚がありましたね。

編:振り返ると川井選手の初優勝は14歳で、最年少優勝と話題になりましたね。それから3年ぶりでしたか。

川井:いやあ、長かったですね(笑)。毎回2位で、一番上には届かない。あと一歩上がれば届くのに、それが遠すぎて、気づいたら3年もかかってしまってました。でも3年の間で色んな経験を積んで、その経験を生かせたことで2020年の開幕戦で勝てたと思います。その年は毎戦優勝できて、そこで勝ち方を覚えていけた感覚でした。

編:念願のチャンピオンになって、変わったことなどはありましたか?

川井:プレッシャー、ですかね。初めてチャンピオンになって、その翌年はディフェンディングチャンピオンとしてレースに挑むと、チャンピオンだから勝てるでしょというプレッシャーを感じました。これは初めての経験でしたし、チャンピオンにならないと感じられないなと思いました。”1番”って、かっこいいけど重いなと実感します。

編:その次の年(2021年)もチャンピオン獲得、2022年は惜しくも2位になりましたが、2023年・2024年と王座に返り咲きました。4度女王に輝いている川井選手にとって、チャンピオンを目指し続ける理由は何でしょうか?

川井:トップを1回獲っちゃうと、もうそこから降りれない、それより下の結果は自分が許せない、という気持ちがあります。優勝できない悔しさも経験してきているからこそ、やはりトップは特別ですし、何度チャンピオンを獲っても、レースに出る限りはそこを目標にし続けます。

編:常に一番上を目指す熱意と強さが軸にあるのですね。
今後も応援しています!今日はありがとうございました!

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