2025年はポイントスケールが変更され、最終戦までチャンピオンシップ争いが白熱した。その激闘を制し、チャンピオンに輝いたライダーたちはどんな想いで今シーズンを戦ってきたのか。チャンピオンインタビュー第1弾では、IA1クラスで初めてチャンピオンに輝いた#4大倉由揮(Honda Dream Racing Bells/ホンダ CRF450R)に、タイトル獲得までの道のりを振り返ってもらった

2025年、IA1クラスでは、ディフェンディングチャンピオンの#1ジェイ・ウィルソン(YAMAHA FACTORY RACING TEAM/ヤマハ YZ450FM)が圧倒的な勝利数を誇り、誰しも彼がこのままチャンピオンになると考えていた。しかし、ウィルソンは最終戦ヒート1の負傷により無念のリタイア。ランキング2位につけていた大倉由揮が逆転を果たし、初のチャンピオンを獲得する怒涛の展開となった。

大倉は今年でIA1クラス4年目。2022年にチームを移籍し、ホンダの450ccマシンに乗り換えてIA1デビューしている。初年度こそ苦戦したものの、2023年はランキング2位を獲得。2024年に自身初優勝を飾り、2025年には第4戦と第6戦の合計2勝を収めた。また、2024年からは海外トレーニングやヨーロッパで開催されるレースへの参戦、2022年から3回連続となるモトクロス・オブ・ネイションズへの出場など、多くの海外経験を積んできた。

最終戦のヒート1で見えたチャンピオンの可能性、ウィルソンを倒すという強い意志。大倉はチャンピオン決定の瞬間までどんな想いを持って戦い抜いたのだろうか。

苦悩と経験を糧に成長を続けた4年間

JMX Promotion:2025年シーズンお疲れ様でした、そしてチャンピオン獲得おめでとうございます! 大倉選手は2022年にホンダに乗り換えてIA1クラスにステップアップ。4年目の今回初めてのチャンピオンとなりましたが、これまでを振り返ってみていかがでしょうか。 ‎

大倉:そうですね、毎年毎年、自分の成長を感じてきた4年間でした。 ‎

JMX Promotion:最終戦でのチャンピオンインタビューでは、IAクラスに昇格したての頃は苦戦していた、というお話もされていましたが、1年目は自身にとってどんなシーズンでしたか?

大倉:当時は大城選手(大城魁之輔:2025年IA1ランキング3位)がチームメイトでした。彼がIA1デビューイヤーから絶好調で表彰台獲得や初優勝をしている一方、自分は何回か表彰台は登れましたが、それ以外は結果のばらつきが大きくて、入賞するのも難しいぐらいのレースも多々ありました。チームを移籍して、ホンダの450ccマシンに乗り換えて、1年目でしっかり結果を残したいという気持ちがかなり強いのに結果を残せなくて……、すごくプレッシャーを感じていました。 ‎

JMX Promotion:苦しいですね……。 ‎ただ、そんな中でもシリーズランキング6位で1年目は終えています。

大倉:はい。それでも、メンタルも技術も、色んなことがうまく噛み合ってなかったと思います。 ‎

JMX Promotion:IA1クラス2年目になると、コンスタントに表彰台や上位に入るようになって、ランキングも2位で終えています。1年目と比べるとかなり安定感が出たように見えますが、何かきっかけがあったのでしょうか? ‎

大倉:1年目はチーム環境もマシンも変わったので、新しい環境に慣れていなかった部分も大きかったです。2年目に入ってマシンにもようやく慣れて、乗れるようになっていったというのはあると思います。

JMX Promotion:1年目特有のプレッシャーだったり、環境への慣れだったり、メンタル面に響いていたものが大きかったんですね。

大倉:そうですね。2年目はマシンと環境への慣れと、1年目の反省がだいぶ生かされたと思います。2年目はもう言い訳はできない、しっかり結果を残していかないとダメなシーズンという思いは常にありました。せっかくプロとして走れるチャンスを手にして、やっとスタートラインに並べたのに、ここで掴んだチャンス手放したくないという気持ちが一番強かったです。 ‎

JMX Promotion:1年目よりも強い意志を持って走っていたのですね。

大倉:正直1年目は、ホンダのライダーとして僕を選んでもらったのに結果も残せず、こんな俺が走ってていいのかみたいな、すごくマイナス思考に陥ってしまってました。

JMX Promotion:それはどう抜け出したのでしょうか? ‎

大倉:僕自身が後ろ向きな考えをすることが多かったので、それをやめるように心がけました。1年目にだいぶやられたので、2年目に入る時にメンタルについての本を3冊くらい買って読んでましたね。

JMX Promotion:なるほど。読書は普段からするんですか?‎

大倉:いえ、あんまり読まないのですが、成長するために買ってみようと思い立ちました。実際、本を読み終わって出たレースの成績が良くて。そこからはお守りのように常に本をリュックに入れて持ち歩いてたりもしました(笑)。 ‎

JMX Promotion:本で学んだことがレースでもしっかりと生かされたんですね。

大倉:はい。さらに言うと、今年はもうその本に頼らず結果を残せるようになったので、だいぶ効果はあったと思います。今振り返ると、マイナス思考がいかに良くなかったのか気づけるのですが、当時はそこから抜け出せませんでした。でも、そういう時期を経たから今があると思います。今シーズンだと、開幕戦で調子が悪くてマイナス思考になりそうだったのですが、すぐに立て直して2戦目に挑めました。

海外で受けた刺激、モトクロスに対する意識の変化

2025年モトクロス・オブ・ネイションズ参戦時

JMX Promotion:3年目(2024年)からは海外トレーニングにも行くようになり、そこから大倉選手の勢いがさらに増したように感じました。特に今年は、インタビューをさせてもらっている中で「ジェイさんを倒すぞ」という強い意志を感じるコメントをたくさん聞いた印象です。

大倉:そうですね、去年ぐらいから海外でトレーニングする機会をいただいて、新たに学ぶことが一気に増えましたし、モトクロスに対しての考え方もすごく変わりました。

JMX Promotion:モトクロスに対しての考えが変わった、というのはどう変化したのですか?

大倉:海外のHRCトップ選手たちと一緒に走れる機会もあり、その中で世界レベルのライダーとの実力差を痛感しました。そこですごく意欲が湧いたというか。 自分が敵わないライダーたちがまだまだたくさんいる、そもそも全日本で自分が限界だと思ってた走りも世界ではまだまだだ、ということに気づきました。今の走りで悩んでいる自分がちっぽけに感じましたし、はるか先の世界があるということを突きつけられて、日本でも身構えずに攻めていこうという気持ちが出てくるようになりました。

2025年モトクロス・オブ・ネイションズ参戦時

JMX Promotion:なるほど。そういう気持ちの変化が、走りにも出ていたんですね。

大倉:今日めっちゃ調子良いかもという日でも、海外では全然で、ボッコボコにされるんですよね。お前それで調子良いのか? と言われてると感じるくらいのタイム差を見せつけられるので、もっと上を目指そうという向上心を自然と持つようになりました。 ‎

JMX Promotion:海外での刺激がかなり強かったのですね。

大倉:ただ、現地では自分が遅くなったと思うほど実力差を見せつけられて、メンタルも落ち込みます。実際、帰国して迎えた今年の開幕戦では、そのマイナス思考が残っていたのもあって上手く走れませんでした。スピードはあったのですが、自分の走りに自信がなさすぎて、空回りして転けてまくって……。散々でした。でもそこで負のループに入らず、誰よりもやってきたのは確かだからそれを信じていこうとメンタルを切り替えることができたので、徐々に結果も出始めました。 ‎

JMX Promotion:2年目で学んだメンタルコントロールが生かされたんですね。

大倉:そうですね。開幕戦でリズムを崩したまま第2戦も迎えていたら、チャンピオンはたぶん獲れていなかったと思います。

1年目は正直ライディングスキルも自信もなかった状態からスタートしたのですが、そんな自分に対してホンダチームの皆さんが海外行く機会を作ってくれたりと、たくさん協力いただきました。そこで色んなつながりも広がり、ライディングに関しても学んでいって、4年かけて周りに成長させてもらったと感じています。

「成長」の2025年、ターニングポイントは第4戦中国大会

第4戦ヒート1

JMX Promotion:2025年についても振り返りたいのですが、まず率直に今年はどんな一年でしたか? ‎

大倉:そうですね、走りの面でかなり成長した一年だったと思います。

JMX Promotion:どんな場面で自分の成長を感じましたか? ‎

大倉:やっぱり一番はスタートが出られるようになったという点ですね。特に後半戦、第5戦近畿大会からスタートで結構前に出られるようになって、レース序盤からトップ集団の中で戦えるようになったというのは自分的にかなり強みになりました。 ‎

JMX Promotion:たしかに、後半戦は序盤からトップ争いをしている姿が印象的でした。

大倉:それまではスタートで出遅れて追い上げる展開が多くて、ずっと自分の課題だったので、一つクリアできたのは自分にとって大きな成長でした。

JMX Promotion:そこを打破できたきっかけは何かありましたか? ‎

大倉:一番はやっぱり広島(第4戦中国大会)でホールショットを決めて、そのまま優勝できたことですね。自分の課題であるスタートで前に出て、優勝できたことで自分の走りに自信がつき始めて、そこからスタートが安定するようになりました。

JMX Promotion:あれは見事な勝ち方でした。第4戦はインターバル期間に入る前のレースというのもあって、後半戦にも繋がったんですね。優勝というと、第6戦で2勝目をあげましたが、あれは追い上げのレース展開でしたね。

大倉:そうですね。かなり出遅れてのレースでしたが、ラスト1周でトップに立って優勝できた嬉しさは一番心に残っています。

JMX Promotion:追い上げの状況からも勝てる、という実力を証明しましたね。

大倉:広島ではスタート出てトップだったので、あとはもう落ち着いて自分の走りをしようという感じでした。序盤から後ろのライダーとはある程度差があったので、すごく楽な展開で終わったんですけど、第6戦はラスト1周までトップと結構な差が開いていたので、限界を超えてプッシュし続けました。自分の殻を破ることができたレースになったと思います。

JMX Promotion:チャンピオンシップは最終戦で決まるという状況でしたが、当日はどんな気持ちで迎えましたか? ‎‎

大倉:1位のジェイさんとのポイント差は開いていたので、大会当日までは全然何も思っていませんでした。予選もスタートが決まって、フェーブル1の前に出ることができたので、彼を抑えてトップを守るために自分の限界に挑戦しました。 ‎

  1. ロマン・フェーブル。最終戦にスポット参戦した2025年モトクロス世界選手権MXGPクラスチャンピオン ↩︎

JMX Promotion:1周目抑えてトップで戻ってきた姿はかなり印象に残っています。

大倉:予選の前半はすごく攻めれてたのですが、攻めすぎて後半は体力が追いつかなくなってしまいました。そこでかなり身体的に疲労やダメージを受けてしまったので、まだまだ自分の足りない部分を実感しました。

チャンピオンを獲得した瞬間、そこにかけていた思い

JMX Promotion:決勝ではウィルソン選手のリタイアによってチャンピオン獲得が突然目の前に出てきたと思います。走行中はどんな心境だったのでしょうか?

大倉:結構冷静でしたが、身体はガチガチでした。結構とっちらかったような走り方をしていたなという気はします。 ‎

JMX Promotion:そこはコントロールしきれない部分だったんですか? ‎

大倉:そうですね。やっぱり思った以上に体は動かなかったです。

JMX Promotion:初めてチャンピオンを獲った瞬間、今振り返っていかがですか? ‎

大倉:報われたな、という気持ちがあります。ゴールしてチャンピオンが決まった瞬間、すごく嬉しいというよりも、解放されたというか、安心感の方が強かったですね。ヒート2はポイント的にも普通に走っていればチャンピオンが決まるというような状況でしたが、やっぱりその”普通にゴールする”というのがとてつもなく怖く感じました。経験したことないプレッシャーがのしかかってきましたし、ゴールするまでがとてつもなく長く感じましたね。 ‎‎

JMX Promotion:IA1に上がって4年目でのチャンピオン、大倉選手にとってどんな意味を持っているのでしょうか? ‎

大倉:僕自身IA2クラスでチャンピオンを獲っていないので、IAでの初めてのタイトルになります。1年目は大城選手がルーキーで優勝するような中で僕は散々な結果だったり、2年目はランキング2位に入ったんですけど、実力不足を感じていた中での結果でした。そういうシーズンが続いても、結果を残せるだろうと信じてくれたホンダやチーム、応援してくれた方々に対して、やっとチャンピオンという形で恩を返せたと思います。

JMX Promotion:チャンピオンになって、何か変わりましたか?

大倉:正直そんなに変化は感じていません。ただ、最終戦でチャンピオンを取れるかもってなった瞬間の緊張感を経験したので、来年同じ状況になったとしても怖くないなと思います。

ジェイさんと比べると勝利数もかなりの差で負けてますし、向こうがリタイアしての時結果だったので、ベストな形でのチャンピオンではなかったなという気持ちはあります。来年はディフェンディングチャンピオンとなりますが、自分としては挑戦者という気持ちで挑んでいきたいですし、もっと成長したいと思います。

2026年に向けて

JMX Promotion:最後に、来シーズンの目標を教えてください。

大倉:来シーズンはもちろん連覇が目標です。今年よりも勝利数を上げていきたいですね。あとは、もっと海外にも挑戦したいですし、もちろんモトクロス・オブ・ネイションズの日本代表に選ばれるよう、もう1つ上のレベルに上がれるように成長を続けていきたいと思います。

JMX Promotion:ありがとうございました!

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