2025年10月3〜5日、モトクロスの国別対抗戦「モトクロス・オブ・ネイションズ(MXoN)」がアメリカ・インディアナ州にあるアイアンマン・レースウェイで開催され、今年は日本代表として下田丈・中島漱也・大倉由揮の3名がレースに挑んだ。

予選を勝ち抜く鍵となる出走クラス

下田はAMAスーパークロス/プロモトクロス/スーパーモトクロスシリーズでトップを争うライダーであり、MXoNの2週間前にはスーパーモトクロス(SMX)250クラスで日本人初となるタイトルを獲得。その実力の高さと勢いはチーム内でも群を抜いている。一方、中島は2024年にD.I.D全日本モトクロス選手権IA2クラスでチャンピオンを獲得、大倉は2025年第5戦終了時点でIA1クラスランキング2位につけており、MXoNで予選を通過するために誰をどのクラスに出場させるかが日本チームにとって鍵となった。

悩んだ末、中島がMX2クラス、大倉由揮がMXGPクラス、下田丈がMX OPENクラスに出場。初めこそMXGPクラスに下田を出場させる予定であったが、激戦のMX2とMXGPに対して比較的結果を残しやすいMX OPENクラスで下田を走らせることで、少しでも上の順位でゴールし、日本代表が予選通過できる確率を高める作戦をとった。

ゲートピックは23番

大会1日目には予選のゲートピック順を決めるくじ引きが行われた。全37カ国が競い合うMXoNではスタートで前に出られるかが勝負となるため、なるべく選択肢が多く残される順番でスターティンググリッドを選びたいところ。緊張感が漂う中抽選は行われ、今年の日本代表は「23番」に決まった。

予選10位通過、9年ぶりの決勝進出を果たす

2日目の予選日、午前中に行われた40分間のフリープラクティスでは各ライダーがコース状況を確認しつつマシンをセット。午後に予定されている予選に向けて調子を整えた。

予選は各クラス20分+1周。1組目となるMXGPクラスには大倉が出場した。序盤で19番手あたりにつけると、そこから追い上げ15番手に浮上。トップバッターで予選を迎え緊張気味だったという大倉だが、勢いのある走りで前のライダーとの距離を縮める。しかしレース終盤、ギャップにタイヤが跳ねられた衝撃でマシンから10mほど飛ばされる大きな転倒を喫し後退。とはいえすぐに復帰したことで大きく順位を落とすことなく、19位でゴールした。大倉は「正直地面に打ちつけられた時は一瞬息が止まるほどでしたが、それよりも僕の転倒のせいで予選通過ができないのは嫌だという気持ちの方が大きくて、気がついたらすぐに立ってマシンに跨っていました」と振り返り、予選通過への意地を感じさせた。なお、レース直後には肩などに痛みを感じていた大倉だが、大事には至らなかった。

2組目には中島が出場するMX2クラスが行われた。中島はスタートで良い反応を見せて12番手あたりから追い上げる展開。周りのライダーと接戦を繰り広げ、結果14位でフィニッシュした。MXoNの予選は3レースのうち上位2つの合計で総合順位が決まり、合計数が少ない順に1位から19位までが予選を通過できる。2つのレースが終了した時点で日本チームの合計は33ポイントとギリギリ予選通過が厳しいラインであり、下田の結果に託された。

迎えたMX OPENクラス、下田は好スタートを決めて4番手あたりにつける。下田にとって450ccマシンに乗ってレースをするのは今大会が初めてであるが、上位陣に劣らないスピードで追い上げ、レース中盤で前のライダー2台をパスし2番手に浮上。終盤にかけてトップを走るジェット・ローレンスに迫るも、2位でチェッカーを受けた。

結果、日本代表は大倉19位/中島14位/下田2位、合計16ポイントで総合10位となり、見事予選通過。決勝に進出するのは2016年以来であり、9年ぶりとなる。

総合11位、日本代表の実力と成長が見えた決勝

大会3日目、20分間のウォーミングアップを終えて決勝が開催された。決勝は30分+2周を全3回、各レース2クラスずつ混走するというMXoN独特の形式だ。

レース1はMXGPクラスの大倉とMX2クラスの中島が出走。中島は中央、大倉はそれよりもややアウト側のスターティンググリッドをチョイス。2人ともスタートで良い反応を見せ、大倉が12番手あたり、中島も19番手あたりにつける。両者、一つでも上の順位でのゴールを目指すが、2〜3周目あたりでそれぞれ転倒。復帰に時間がかかったことで大倉は35位、中島は30位あたりまで順位を落としてしまう。その後追い上げるも、大倉31位、中島36位でゴール。

続くレース2はMX2クラスの中島とMX OPENクラスの下田が出場した。下田にとってはこれが450ccマシンで初めての決勝レースということでその走りに注目が集まる中、抜群のスタートを見せトップで1コーナーに入る。しかしコーナーでのブレーキングミスにより後退、5番手からトップを追いかけることとなった。ジェット・ローレンスがレースをリードする中、下田は2周目で4番手に浮上。普段乗っている250ccマシンと異なる戦い方に苦戦をしていたとのことだが、着実に前のライダーとの距離を詰める。前を走るRJ・ハンプシャーの転倒などもありレース中盤にかけて2番手にポジションを上げてフィニッシュ。一方中島は25番手あたりから追い上げる展開となったが、ペースを上げきることができず、31位でチェッカーを受けた。

レース3はMXGPクラスの大倉とMX OPENクラスの下田が走る。ここでもまた下田がスタートで飛び出すと、レース2でのミスをしっかりと修正しホールショットを獲得。レースをリードし、1周目をトップで通過する。その後、後方からハンター・ローレンスとルーカス・クーネンが下田をパス。3番手に後退するも、クーネンの転倒により再び2番手に浮上した。しかし下田はレース中の腕上がりがひどく、体力をかなり消耗していたとのことで、レース終盤にかけてペースを上げきれず他のライダーに前を譲る形となる。一方大倉はスタート直後に起きたクラッシュに突っ込んでしまい転倒。31番手あたりと大きく出遅れる。最後まで追い上げ続けるも前のライダーとは徐々に差が拡大。結果下田は6位、大倉は29位でゴールを果たした。

なお、総合順位は6レースのうち最低順位を除いた5つの合計で決まる。日本チームは転倒や体力の限界が見られたものの、各ライダーが全力を尽くした結果、合計ポイント99で総合11位を獲得した。

下田丈
「大倉選手も中島選手も練習や予選で結構大きなクラッシュがあったのですが、それでもちゃんと最後まで走ってくれて、自分含めみんなで頑張って結果を残せたことが予選通過につながったと思います。9年間予選を通過できなかった期間がありましたが、今回そこをクリアできて、決勝も総合11位で終えられたことは良かったと思います。個人的には450ccで出場するというチャレンジでもありました。とはいえ、乗り換えてから実際にマシンに乗れたのはレース含めて5回という状況だったし、他のライダーと走った時の自分の順位も全く予想がつきませんでした。今回は練習もそこまでできず、250ccマシンに合わせた身体作りのまま450ccに乗り換えたので、マシンに対しては体重も軽いし、体力面も準備不足でした。特にレース3はかなりしんどくて、腕上がりもひどかったです。そんな中でも良い結果で終えることができて、自分のスピードは通用するということがわかりました。MX OPENクラスに僕が出場するというのは良い作戦だったと思います」

大倉由揮
「今回3回目の出場ですが、初めて決勝に出ることができました。レース自体はこれまでの海外経験が生かされて、そこまで緊張感や違和感なく走ることができました。決勝の結果を数字として見たら、良くなかったというのが正直なところですが、内容を見ると、これまでと比べてだいぶ成長していると感じます。1年目は予選24位でしたが、今年は15位くらいの位置でバトルができました。前のライダーに追いついて、いけるという時に吹っ飛んでしまったのですが、これで予選落ちはしたくないという気持ちが強くて、あの瞬間は色々考える前にもうバイクに向かって走っていました。そんな転倒をしても19位でまとめられたことは前向きに捉えられると思います。 ‎今回はチーム戦なので、丈が飛び抜けて良い成績を残してくれたのはすごく心強かったし、ありがたかったです。漱也も頑張ってくれていましたし、これからもっと伸びてくる選手だと思います。この3人で予選通過できて決勝11位という結果を残せたことはよかったです。ただ、2人の頑張りに上乗せできなかった自分の走りには悔しさが残ります。もっとやりたかったという気持ちが強いです。自分は最年長で、これからさらに年を重ねていくわけですが、今もなお自分の伸び代は感じているので、さらに成長して、ビークを迎えた者同士で再び挑めたら面白いですね。今回3回目の出場でしたが、『また大倉か』と言われるくらいこれからも代表メンバーに選ばれるように、さらに結果を残していきたいです‎」

中島漱也
「初めてのMXoNということで、結果を残すために丈からのアドバイスをたくさん聞こうと思っていましたし、実際に3人共遠慮せずに話ができたのは良い雰囲気だったと思います。 ‎丈もリーダーシップを持って動いてくれて、とても心強かったです。2016年ぶりの予選通過を叶えることができて、決勝を総合11位で終えたことはチームとして大きな一歩になったと思うので嬉しいです。ただ、決勝の結果を見ると、丈の結果に引っ張ってもらった形で、自分としては11位にさせてもらった、という感じです。自分が両ヒートで5つずつ順位が上だったら総合トップ10も見えていたので、そう考えると悔しさが残ります。MXoNに出ることが自分の夢で、出場が決まってからもレースに向けて長い時間準備をしてきました。日本からのサポートはもちろん、現地で良いバイクを用意してもらったり、サスペンション担当の方が日本から来てくれるなど、ほとんどいつもと同じ環境で何不自由なく走れました。また大きいレースということで、会場や観客の雰囲気、海外の速いライダーと走る環境に飲まれないようにしようと、インターバル期間や大会直前に事前練習に来ることで慣れを増やし、メンタル的にも余裕はありました。だからこそ、決勝で自分がチームに貢献する走りができなかったことが悔しいです‎し、現実を突きつけられた感覚が強いです」

9年ぶりの予選通過、そして2016年を上回る結果を残せたことはチームとして快挙である。走行クラスやゲートピック順の作戦が功を奏したのはもちろん、日本のライダーの成長を大いに感じられる大会となった。

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